ベンフィカが32回、ポルトが24回、スポルティングが18回、そしてベレネンセスとボアヴィスタがそれぞれ1回。

これが何を表す数字かというと、ポルトガルリーグの優勝回数だ。つまり、1934年に全国リーグが創設されて以来、わずか5チームしか頂点に立っていないということである。どこの国でも大抵は、栄枯盛衰、強豪の入れ替わりがあるものだが、ポルトガルにはそれが当てはまらない。ポルト、ベンフィカ、スポルティングの3強は国内において突出した存在であり続け、他の追随をほとんど許していないのだ。東京都よりも少ない人口1000万人強という小国だけに、初期から強いチームに人気が集中し、変化しがたいほどの差が開いてしまったのだろう。

例えば、優勝経験があるベレネンセスは首都リスボン郊外にあり、3万人を超える収容人数を誇るスタジアムを擁するが、2008-2009シーズン17試合の総観客数はたった7万8千人程度(これでも2007-2008シーズンの2倍近くに増加)、平均4600人程度の動員に留まっている。ビッグ3以外で突出して動員が多いギマランイスでも1シーズン25万人~30万人。

ポルト、スポルティング、ベンフィカのビッグ3が50万人以上を動員していることを考えれば、興行収入だけでもかなりの差があるわけだ。しかも、常に優勝争いに絡む彼らがチャンピオンズリーグの出場枠をほぼ独占しているため、予算規模の差はさらに大きくなる。ビッグ3以外が優勝できないのはある意味当然なのだ。 しかし、筆者は久しぶりに違う風向きを感じている。開幕から2ヶ月、無傷で7連勝を飾っているブラガがいるからだ。昨年のブラガと何が違うといえば……これが実はメンバーも戦術もそこまで大きく変わっておらず、特別調子がいい選手がいるわけでもない。「不調時は極端に運動量が少なく、足元へのパスが多くなりダイナミズムを失う」という欠点も直っていない。


もちろんそれだけでは何のコラムにもならないので、いくつか考えられる好調の要因を挙げてみたいと思う。

・変化を最小限に留めたことによるスタートダッシュ

新加入の選手でレギュラー格として使われているのはディオゴ・ヴァレンテ、ウーゴ・ヴィアナの2人だけ。監督は変わったが、戦術も基本的に前任者のものを踏襲している。そのために開幕から間もない時点で完成度を高く保っており、守備にも攻撃にもコミュニケーションミスが少ない。

・完成された攻撃的戦術を踏み台にしたバランス向上

ベンフィカに去った前指揮官のジェスス監督は超攻撃的な戦術を使用しており、支配力の高さがある反面、カウンターを受けた際に容易に自陣に侵攻される傾向もあった。今季は両サイドバックの攻撃参加が控えめになり、リスクを減らしている。それでいて前任者のエッセンスが大きく残っており、攻守のバランスが良好に保たれている。

・守備意識の向上

レンテリーア、アギアルなど「技術は高いが、反面守備に消極的」な選手を放出し、より前からプレッシャーをかけられる

献身的な選手を重用。結果として前線には、運動量とスピードがあり、サイド、中央問わずにプレーできる選手が多く残った(ウーゴ・ヴィアナはあまり当てはまらないが)。そのために攻撃に繋がるボール奪取ができる。

・勝負強さの向上

(これは要因というより結果だが……)昨季は前述の「悪い時」には前線がとにかく独り善がりになる傾向があった。レンテリーアが1人で仕掛けてシュートを外し結局点が取れない……ということが多く、シーズンを通して攻撃的戦術に見合わない38ゴールしか取れていない。しかし、今季はそういうときにも全員で勝とうという姿勢が見え、連携も消え去ることはなく、点も取れている。おそらく、これらの要素が組み合わさっての結果ではないだろうか。

とはいえ、スタートダッシュを成功させたチームは今までにも存在しており、そしてそのほとんどが落ちていったのだ。ブラガも同じようになる可能性は否定できないだろう。しかし、それでも筆者が僅かに希望を感じるのは、彼らが「特定の選手に頼っていない」からだ。前述のように、今のブラガには、彼に頼れば何とかなる、という選手は存在しない。

2008-2009シーズンのレイシオスは大活躍していたストライカー、ウェズレイが負傷で離脱した途端に急速に落下、ナシオナルも得点王ネネーの決定力に多くを依存していた。元々ポルトガルリーグは中位が団子状態である上に、点取り屋不足、チャンスメイカー供給過多の傾向が強く、決定力がある選手がいればすぐに順位を上げられるという性質がある。そして資金力がないため放出を余儀なくされ、一夜の栄光となるのが常である。

それが今季のブラガには起こりにくいのではないか、と思うのである。前線はメヨン・ゼ、パウロ・セーザル、ウーゴ・ヴィアナ、アラン、ディオゴ・ヴァレンテがレギュラーといえるが、誰かがマテウス、あるいはモッソーロに代わったとしてもほとんど影響はない。アンカーのヴァンディーニョのサブには実績あるマドリードが控えている。最終ラインにも各ポジション2人ずつ計算できる選手がいる。全く代えが利かないのは、現ポルトガル代表ゴールキーパーのエドゥアルドくらいである。また「ビッググラブでお払い箱になった」経験を持つ選手が多く、引き抜かれる心配もそれほど大きくないだろう。

もちろん優勝の可能性は決して高くはない。しかしポルト、スポルティング、ベンフィカのファンではない筆者は、オランダやドイツを見て、そろそろポルトガルにもサプライズが起こってもいいではないかという気になってしまうのである。片方のゴール裏が崖という独特の姿を持つエスタディオ・アクサに歓喜は訪れるのか、期待は膨らむ。

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