◯名門、地べたをのたうち回る

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FCニュルンベルクが苦しんでいる。

開幕からここまで、驚異の白星なし。欧州の他主要リーグを見渡しても、白星0は実に同クラブのみ、という信じ難い状況だ。

このクラブでいう日本人選手、長谷部と清武の扱いは、他のいわゆる日本人選手『欧州組』とは一線を画する。

例えば香川や長友の立ち位置は、ビッグクラブにおける1選手のそれだ。いれば有益だが、絶対的な活躍を求められる傾向の低い、言わば多国籍軍の中の一兵卒である。一方ニュルンベルクは、そもそもの資金力の低さと日本人2人に支払われるサラリー、起用法から考えれば、完全に助っ人の位置づけ。チームの不振は即ち、ダイレクトに助っ人の物足りなさへの不満という形で吐き出される。

事実、イレブンの中では目に見えて傑出したパフォーマンスを披露する長谷部はともかく、清武の置かれている状況は厳しい。メディアは勿論、チーム内部……具体的には監督から、現在のクオリティに対する不満を公言されている。高い期待と高い要求の元に彼らがクラブに雇われていることを、まず最初に確認しておきたい。

他方、ニュルンベルクが現在抱えている問題は、日本人2人が単独でクオリティを見せたところで、到底解消されるものではない。戦術レベルで有効な武器を有していたとしても、戦略レベルでいくつかの選択肢を間違えていることに、根本的な問題があるためだ。 より我々の日常に近い表現で言うなら、

数が多くはないが、現場に優秀な営業マンはいる。 企画部が提案する商品は、バカ売れこそしないものの、中にはヒットが見込めるものがある。
だが如何せん、会社の経営方針や運営体制に、見過ごせない問題がある
ということになろう。

一応お断りしておくと、筆者は同クラブのファンではない。当然、思い入れその他も一切ない。それどころか、長谷部や清武のファンですらない。勿論彼らにはそれぞれに頑張って欲しいという思いはあるが、それはあくまで日本国民という、同郷の輩が故の関係という枠を出ない程度のものだ。

だが、である。全く思い入れがない第三者だからこそ、むしろよく視えるものもあるのではないかと思い、今回こうして筆を執った。ただし戦術的、技術的な解説はあえて避けている。呪文のようにフォーメーションや専門用語を唱え、読者を置いてけぼりにするより、いかに多くの人に通じる言語で語れるかを主眼に置きたかったからだ。

リーグ優勝経験どころか、かつて一時代すら築いた歴史を持つ古豪、ニュルンベルク。美しき街でのたうちまわる、名門クラブの今を追った。

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○変われるもの、変われないもの

私見だが、戦略・戦術を立てる上で重要な要素は、大きく3つに分類できると考えている。

一つは、変えることができない、もしくは著しく変化が困難なもの。
次いで、変えることはできるが、変化に一定以上の時間を有するもの。
最後に、変えることが比較的容易で、刺激に対してすぐさま反応があるもの。

戦略レベル(いわゆるクラブ全体やフロントの仕事)でも、戦術レベル(いわゆる監督とピッチ上の選手)でも、構成要素はすべてこの3点に選別できる。今回は特に、戦略レベル……クラブ全体の事柄、フロントの仕事に絞って話をしていこう。

まず、変化ができないものとは、具体的に何なのか? 例えば、クラブがある州や県、つまり立地条件がそうだ。川崎を去って東京へ移転した東京ヴェルディのようなケースは、世界的に見ても例が少ない。

他にもスタジアムやクラブが持つ歴史なども、変化が不可能なものにカテゴライズされる。スタジアムは一応、改修工事や新設といった変更が可能ではあるが、そうそう頻繁に行えるものでないことも事実。十年単位に及ぶ計画と支出が必要不可欠な点から、ここにカテゴライズすることができる。

続いて、変えることはできるが、変化に時間のかかるものについて。
これはクラブの収入や出資などの、財政状況などが挙げられる。収入増加やコストカットは、増やそう、減らそうと当人たちが思ったところで、即座にどうこうできるものではない。逆に無理に短期間で変化を促した場合、その分だけ様々なリスクを抱え、最悪の場合はクラブそのものが存続の危機に立たされるケースすらある。長期的なスパンでの計画と、地道な営業努力が必要不可欠だ。

それに比べれば比較的容易ではあるが、選手の補強もあるいは、このカテゴリーに該当するかもしれない。どのような選手を現場が必要とし、現存メンバーの中の誰が不要なのかを見極め、人員の獲得と放出をクラブは行う訳だが、どちらにも一定以上の手間がかかり、即座に施工可能な一手ではないのである。

一方、変化が比較的容易なものとは何か? わかりやすい例としては、監督人事などが該当するだろう。選手を獲得できる時期には制限がかかるが(欧州でクラブ間移籍が許容されるのは、夏と冬の一時期だけである)、指揮官の変更には縛りらしい縛りはない。

他には、グッズやチケットの販売における特定サービスなど、いわゆるカスタマーサービスがここに分類される。勿論、これらも一定の法則と計画に沿って運営されている訳だが、究極的には一部セクション、例えばオーナーの意向があれば実施可能になるものであることに変わりはない。

結局のところ、フロントにできることは

(1)変更が不可能なクラブの構成要素と、現状でクラブが保有するリソースを見極め
(2) それに合った中・長期的なクラブ運営計画を立て
(3) これを運営していく上で、現場の状況の変化に合わせて、更に細かな修正策を取る

ということになる。この中で最も難しいのが、(2)の中・長期的な運営計画の立案である。筆者の考えでは、ニュルンベルクはまさにここで、見過ごせないいくつかの失敗を犯している――ということになる。

 

《その2》に続く。


筆者名:白面

プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者です。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。
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