開催国ということもあり、当然のように優秀候補の本命とされたサッカー王国ブラジルを7-1という驚きのスコアで一蹴し、南米の雄アルゼンチンを決勝で延長戦の末に下したドイツ代表。彼らは、南アメリカ大陸でW杯を制するという困難なミッションを見事に成し遂げた。スペインやイタリアなど、本命候補と見られていたヨーロッパの強豪がコンディション調整に苦しむ中、上手くチームのピークを決勝トーナメントに合わせたスタッフ陣の努力も素晴らしいものだったが、ドイツといえば育成面で大きな成果を上げていることで知られている国でもある。

彼らがEUROでの失敗を契機に、革命的な転換を行ったということは有名だ。では、具体的にどのようなフットボールを育成年代に教え込んでいるのだろうか。その問いに答えるには、育成年代の試合で起こっていることに注目してみることが必要だろう。

練習を調べるという指導者的なアプローチだけではなく、ピッチの内部に集中するアプローチでよりマクロな視点を提供していくことにも価値がある。今回は、今年7月に行われたU-19欧州選手権、通称「U-19EURO」の決勝となったポルトガルU-19との試合を取り上げながら、ドイツが国として取り組んでいるフットボールについて考えていきたい。

今回は原稿として途中まで書き上げていた文章に書き加える形となっているので、少し試合から時間が空いてしまったことを考慮して読んでいただきたい。

1 組み立てにおけるプレス回避

ドイツの強みとしてチームの根幹を支えているのは、「DFラインでボールを持つことが出来る」ことである。

スペイン代表とバルセロナが、ボールを支配することで攻撃回数を増やすことを可能にした1つの要因である「システマチックな組み立て」。その流れを発展させたドイツは、彼等以上に戦術としてパターン化された組み立てを採用している。

例えば下図のような状況は、試合において何度となく現れる場面だ。DFラインでドイツがパスを回しているタイミングで、相手が一気にボールへのプレッシャーをかけようとする場面である。中盤で相手のボランチというパスコースを抑え、FWが近いCBを抑える。狭い位置に追い込んでボールを奪ってしまおうという場面である。ここで、ドイツ(図では白)は、非常にパターン化された動きを選択する。

まず、ここからドイツはCBが低い位置に下がり、中盤が少し高めで受けようとする。それによって相手のアタッカーを引き付け、右サイドバックは広く開いた彼らの間を抜けるようなコースに鋭いパスを送るのだ。

「DFラインでのパスは1つ飛ばせ」という言葉がある。何故なら、相手のプレスを回避する際に、近い位置でのパスはそのまま相手のプレスに引っかかり、奪われる可能性が高くなってしまうからである。更に、ゆっくりした近い位置のパス回しでは相手の守備を動かすことが難しい。そのため、1つ遠いパスコースにボールを送って行くのは基本だ。更にドイツの育成年代は、飛ばしていくパスをチーム全体の連動によってリスクが少ないものにしている。遠いボランチが高い位置を取っているのも、そのシステムにおける重要なポイントだ。それによって、CBの選手はプレッシャーが少ない状態でボールを受けることが出来る。

当然のように個々のクオリティの高さ、特に高い位置に出て行きながらボールを扱うことが出来るCBの存在があるからこそ可能なシステムだが、この組織的な組み立てによってポルトガルの前線からの守備は機能不全に追い込まれた。スペインであれば、あえて狭い位置のボランチに一度ボールを当てることによって相手のプレスを密集させ、そこでサイドチェンジするような「技術を必要とする」組み立てを選択することも良くあるが、ドイツはよりDFラインでのミスを減らしていくことを重要視していることが伺えるだろう。

これは、基本的に相手が4‐2‐3‐1か、4‐3‐3であることを想定した組み立てである。実際最近は、DFラインでボールを保持することが出来るチームを相手にした場合、大抵のチームが前線に1人を残して守備を行ってくる。「4バックと5枚の中盤の状態を作って、ゾーンを組んで守る」という形が恐らく基本形となっており、攻撃的MFやFWの選手が積極的に守備参加することも少なくない。そういった前提の上に、ドイツが年代を問わずにこういった組み立てをチョイスしているということも1つのポイントだ。相手のFWが1枚であるからこそ、フリーになったCBを使っていくことが出来るのだから。

例えば、W杯においてアルジェリアはプレスにおいて図のような形を取らないことで、ドイツの組み立てのリズムを崩すことに成功している。「緻密に組み立てをシステム化していくこと」によってそういった「相手の変化」に対抗しづらいリスクは存在するものの、「相手の基本形であれば迷うことなく崩していくことが出来る」というのは大きなメリットだ。こういった反復練習が生む、「戦術的な基本形」こそがドイツの大きな武器なのだ。

U-19代表のレベルで、教科書のような距離感を保ちながらプレーをするドイツの若者たちを見ていると、フットボールにおける「基本」というものがドイツでは「より広い範囲に、より緻密に」なっていることを実感する。近年フットボールが進化していく中で、創造性や個々の技術を生かす「土台」が重要になっていることは、ヨーロッパのフットボールを見ていれば良く解ることだろう。

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