欧州トップレベルの厳しさ

最後の共通点は、イタリア・セリエAでトップレベルの難しさを学んだことだろう。

坂本がミランのプリマに所属していたとき、一軍昇格をかけた試合が行われた。そこでトップチームのボランチ、ザンギ*の厳しい寄せを背中に受けて、ピッチに倒れ込むシーンがある。

*中盤の底から繰り出す正確なパスと強烈なミドルが売りの、トップチームの司令塔。背番号は「21」

アレクシスもウディネーゼに所属していたときに、これとほぼ同じ経験をしている。2010年に取材の中でイタリアの難しさを語っている。彼はイタリアの守備の戻りの早さを「1対11のよう」と表現している。

「(守備が)めちゃくちゃ厳しいんだ。この間なんて後ろから激しいタックルを受けてね。振り返ってみると、ピルロとガットゥーゾがいたんだよ。なんて思う?どっちがあんな風に蹴っ飛ばしたんだろうって思うよな?」

しかしながら、イタリアの高度な守備戦術に折れること無く、そこから更に成長を続け、バルサではグアルディオラに「アレクシスは私の、私たちの心を奪っていった」と、まるであの刑事の名台詞のようにも聞こえる賛辞まで言わせるほどの選手となった。

イタリア、セリエAでの経験を経て「近代的なファンタジスタ」に成長した坂本徹平のように、アレクシス・サンチェスもイタリアでその牙を研いだ。

アレクシスの次なる野望

アーセナル入団後も、プレミア1年目とは思えない素晴らしい活躍を見せているアレクシスだが、実は既に引退後のプランもあるようだ。性格面までは、坂本徹平と似てはいないという点も面白い。

「役者になりたい。だから広告で写真なんかを撮る時は必ず、キメポーズを取ろうとしているんだよ。問題は、英語が話せないことだろうな。だからハリウッドは無理かもね(笑)」

そんな隠れた努力を明かしているのだが、具体的な役柄まで考えてあるようだ。

「探偵なんかいいね。そうだな、小さな帽子におしゃれな格好でキメてさ。ピストルなんかも持ってクールに振る舞うんだよ!(笑) それか、NASAで働く、何でも知っている青年の一人とかね!」

絵空事のような話に聞こえるかもしれない。ただ、貧困に苦しみながらも「大丈夫、おれがサッカー選手になるから。そしたら全てがうまくいくさ」と、母親に言い続け、見事実現したアレクシスの言葉は、人々に夢を見させるものだろう。まるで漫画の主人公のように、彼の生き様は多くの人間に影響を与えていく。

莫大な放映権料を背景にバブルを謳歌するプレミアリーグ。ここに、富と名声を手にしてもなお、初心を忘れずサッカーに打ち込む、ある物語の主人公のような選手がいることを覚えておいて欲しい。

現在第2部となる 『ファンタジスタ・ステラ』で活躍する坂本徹平のように、アレクシス・サンチェスの旅路も、ここから佳境を迎えるはずだ。サッカー少年の夢見るような物語のフットボール人生を謳歌する彼の活躍を祈りつつ、今回は筆を置くこととしよう。

筆者名:黒崎 灯(あかり)

プロフィール: イングランドのサンダーランド大学にてスポーツジャーナリズムを学ぶ20代。アカデミーとユースの試合の取材を通じ、若手を中心に学生記者活動を送る。先輩コラムニストである結城康平さんに声をかけて頂き、Qolyさんでコラムを書き始めました。ご意見・ご感想はこちら (@minMackem)まで。お待ちしております!
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