フーリガニズムとテロリズム。

オーストラリアの社会学者Ramón Spaaijはフーリガリズムについて「その言語が含む行為の複雑性、広さ故に、正確な定義というものは存在しない。」と述べている。しかし同時に、彼は「フーリガリズムに存在するパターン」に言及している。

それは、「開始当初は相手選手や審判に対する個人的な暴力行為」であったものが、より「組織的に、相手のファングループに暴力行為を働くこと」に移行していったという点だ。今回取り上げるフーリガリズムは、この中でも「組織的に、相手のファングループに暴力を働く行為」に絞っていこうと思う。1つ強調しておかなければならないことは、大半のフーリガンにとって暴力は「結果」であるということだ。

Ramón Spaaijの言葉を借りれば、「彼らにとって暴力自体が目的であるのではなく、暴力は何かしらの関わりの中で結果的に生まれるだけのものだ」と言うことである。つまり、フーリガリズム自体の目的は決して「暴力」ではない。しかし、そのフーリガリズムの中で暴力を目的とするものもある。それはより組織的に整備され、リーダーを中心にして暴力行為を実行する傾向にあると言われている。今回文中で取り上げるのは、そういった「限定的なフーリガリズム」だ。

名著『HOW FOOTBALL EXPLAINS THE WORLD』において、アメリカ人の著者Franklin Foerは世界中のスタジアムを周り、様々なクラブ関係者、フーリガンと接触していく中で「グローバル化は、必ずしも良いものではなく、フットボールにおけるナショナリズムを強化している」という仮説に辿り着いた。

筆者は今回、同書に出てくるフーリガンとテロリストの「類似点」について考えていくことにした。Franklin Foerが描き出したフーリガリズムは、限定的なフーリガリズムと言えるようなものだった。

1人目は、カイルと呼ばれる男だ。彼はセルビアの名門クラブ、レッドスターを愛するフーリガンだ。ウルトラ・バッドボーイズと呼ばれるフーリガンチームを率いる彼が好むやり方は、相手のファンに溶け込むことだ。相手のユニフォームを着て、内部から鉄パイプを持った若者がライバルファン、警察を殴り倒す。

2人目はチェルシーのサポーター、アラン。彼は15歳の時にフーリガンとなり、バーンリーのファンに仲間達と挑みかかるも敗北。30歳程度の強靭な肉体労働者達に捕まり、「正しい蹴りを教えてやるよクソガキ!」と言う言葉と共にボロ雑巾のように蹴り飛ばされた。

その屈辱を晴らしたのは、次のシーズン。少年達は見事にバーンリーのファン内に溶け込んで散らばり、油断した彼らの背中に襲いかかった。多くの屈強な男達を容赦なく病院送りにして、不良少年達は美酒に酔いしれた。イングランドのフーリガニズムが騒がれ始めたのも、この頃だと言う。