ジョルジュ・ジェズスのサッカーとは?

1ページ目で書いたことと重複するが、ジョルジュ・ジェズスという監督は非常に一貫性がある人物だ。よく言われているような「戦術家」というより、むしろ「戦略家」と言っていい。選手を集め、練習によって育て、その配置をしてピッチに送り出した時点で彼の仕事は90%終わっている。

個人で状況を打開できる技術を持つ選手を両ウイングに配置し、運動量と攻撃力があるサイドバックを置き、外から相手を押し込んでいく。中央では2トップと逆サイドのウイングがゴール前に詰め、こぼれ球をボランチの一角が狙う。

そのため、彼のチームはいつも守備的なボランチが一人だけ。2014-15シーズンの後半戦は、エンソ・ペレスがバレンシアへ移籍したために元々FWのピッジをサマリスと組ませるという選択もしたが、おそらくジョルジュ・ジェズス以外にこの決断が出来る人物はほとんどいないはずだ。

事実、今季のルイ・ヴィトーリア監督はピッジをサイドハーフへと移している。


ベレネンセス時代に彼が見せたサッカーは「ポルトガルにしては前線の流動性が乏しく、シンプルにサイドから仕掛ける」というものだった。その後移ったブラガでアラン、セーザル・ペイショト、マテウス、モッソロなど攻撃的な選手に恵まれ、4-1-1-2-2という独特のスタイルが形成された。

ベンフィカに移った彼は初年度にアンヘル・ディ・マリアラミレス、2年目にニコ・ガイタン+カルロス・マルティンスとウイング+センターハーフという両サイドを使ったが、徐々に攻撃的なマインドを高めていく。

3年目には左利きのブラジル人テクニシャンであるブルーノ・セーザル、そして今セルタでブレイク中のノリートが加わる。4年目にはエドゥアルド・サルビオ(彼は1年空けての復帰)、オラ・ジョン、そしてエンソ・ペレス(今はボランチだが、ピッジと同じくコンバート組)が入ってきた。

ドリブルで相手を抜くことが出来る選手を両サイド、点を取れるセンターフォワードとシャドーの2トップ。中央には攻撃的なセンターハーフを置く。

かつては中にアイマールを起用したこともあるが、ラミレスが抜けて以降はカルロス・マルティンス、アンドレ・ゴメス、エンソ・ペレスと純粋なトップ下を置いたことはあまりない。

ではその攻撃的な選手だらけのチームでどう守らせるか? それは「技術ある選手にちゃんと守らせる」ことに尽きる。

ニコ・ガイタンやアンヘル・ディ・マリアだけでなく、サイドバックになったファビオ・コエントラォンらが選手として一皮剥けたのはまさにこのおかげであるし、それが出来ることこそがジョルジュ・ジェズスによるマネージメントの神髄だ。

起用する選手への信頼も強く、「選手層が薄いのではないか」と感じるメンバーで戦い抜いてしまうという特徴もある。逆に言えばだからこそ選手が育つともいえるのだ。

アンヘル・ディ・マリアが抜けた後、左サイドには欧州初挑戦のニコ・ガイタン一人しかいなかったにもかかわらず、彼をしっかりリーグ随一のウイングへと成長させた。

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