DJは「蛇口」なんだ

――最近はDJが審判の判定を揶揄したり、相手選手から批判されるなどの問題がありましたね。ただ、むしろアウェイの人の方が多くのお金を使ってやってきてくれているし、地域リーグなら選手もわざわざ来てくれている存在ですよね。藤原さんはどんなスタンスで臨んでいるんですか?

どのDJさん、MCさんもそうだと思いますが、アウェイチームには、対戦相手としてのリスペクトを持った上でミスのないように伝えるアナウンスをしています。喋る時に乗せる感情は至ってフラットなもので。

今季はボクの所属事務所の後輩くんがアウェイのアナウンスを担当していますが、スタメン紹介の前にアウェイチームに対して「ようこそ奈良へ!」と呼びかけるようにはしています。「このあとの試合が素晴らしいものになりますように」と。

こういう進め方も多くのチームがされていますよね。喧嘩をするのではなく、ホームチーム・奈良クラブが迎えた対戦相手。絶対に邪険にはしません。

ただし声のパワーをこちらからは贈ることはありませんが(笑)。

――最近は様々なDJのスタイルがありますが、サポーターの応援との連携はどこまでやるべきだと思いますか?

チームとファン、そのあいだの微妙なラインに立っておくべきだと思います。

チームの人間であろうとすると、クラブのことだけを考えたアナウンスをしてしまう。例えばクールダウンに行く選手を優先するか、声を聞きたいファンを優先するか。インフルエンザの流行時期にファンサービスをするのかどうか。

アナウンスをしていると僕が「止めた人」になる。ファンサービスをやめたら、怒られるのは僕だったりする。

そこの間に立って妥協点を探せるのがDJだと思います。チームの人間でありすぎてもいけないし、ファン過ぎてもいけない。しかもチーム愛がなければ出来ない。どっちに寄ってもいけない。そこが難しいところですね。

――審判批判をしちゃったりしたのは、ファンに寄りすぎてしまった?

まあ、そういうDJがいてもいいと思うんやけども、表現の仕方や言葉選びな気がしますね。そういう気持ちは僕も持ちます。ただ、それも含めてサッカーなので。それを考えた上でアナウンスをしなければいけない。ファンに寄りすぎてもいけないし、チームに寄りすぎても事務的になってしまいますからね。

ディレクターやみんなの思いを背負って、発信しているのが自分。「水道の蛇口」みたいなもの。蛇口次第で水の出方も、味も美味しさも変わってくる。そういう意識で喋らないといけないと思います。どういうフィルターを通すのか、それも個性かな。

――その他に気を付けている点はありますか?

例えば、バスケットは交代が頻繁にあるスポーツです。この選手の起用には意味があって、「それを見てほしい」という思いを込めてその都度コールしています。

サッカーでもその点は同じなのですが、3回しか交代はできない。となると、交代が持つ戦術的な意味合いと期待値は、バスケのそれより断然大きい。だからボクがサッカーのスタジアムDJで最も力をいれているのは交代の場面だったりします。そこを盛り上げて、お客さんが熱く反応してくれて拍手と声援で送り出して、しかもその選手が活躍するとなると本当に嬉しい!

どう紹介するかは単語でしかないわけだけど、「自分たちを代表して戦っている選手はこんな選手なんだ」、「彼らが戦ってくれているんだ」というところは強調したい。「何かを変えてくれ」、「活躍してくれ」という思いを込めて送り出されるわけだから。気持ちを乗せてあげたいなと。

――アナウンスは「期待感」なんですね。

そう。煽りたいですね。