こんにちは。駒場野です。

次回はUCL……のつもりでしたが、その前にちょっと気になったニュースを。

メディア登録させて頂いていると、JFAからはほぼ毎日、いろいろな報道発表のメールが送られてきます。内容も多種多様で興味深いのですが、なかなか紹介はできず、他のマスメディアや専門誌ウェブサイトでもフォローしきれないのが現状です。

ただ、そんな中でも特に私の関心を引いたリリースが来たので、背景と共に簡単にご紹介します。

 

○「セミナー」と「合同会議」のご案内

4月2日付で届いたメールは、この2つの取材案内でした。

  • 日本-ASEANサッカー連盟Football Developmentセミナー(4月6日~8日、大阪)
  • ASEAN/東アジア地域 サッカー協会 合同会議・記者会見(4月9日、東京)

これだけだとほとんど事務連絡のような内容ですが、他の情報を合わせるといろいろな物が見えてきます。

ASEANサッカー連盟(AFF)には現在12カ国が加盟しています。参加しているのは地域協力機構であるASEANに加盟する東南アジアの10カ国と、2002年に主権国家として「独立」してASEANへの加盟を希望する東ティモール、そして2013年8月27日に最も新しいメンバーとなった南の大国、オーストラリアです。

ASEAN同様、AFFも日本とのつながりは元々深く、いわゆる「東南アジア選手権」も2008年から日本のスズキ自動車がスポンサーとなって「AFF Suzuki Cup」として開催されています。マレーシアとタイで行われた2012年大会の模様はQolyでもレポートされていました。タイではキャンペーンガールの皆さんがサッカーボールデザインのスズキ「スイフト」の前でポーズを取っていました。

なお、2014年大会は11月から12月までベトナムとシンガポールの共催で行われ、シンガポールでは世界最大の浮遊式ステージである「サ・フロート@マリーナベイ」でも試合が予定されています。

「東南アジアサッカー連盟にオーストラリアが加入」
https://qoly.jp/index.php/news/18411-20130827-aff

「スズキカップを盛り上げるタイの美女たち」
https://qoly.jp/index.php/story/13261-2012-aff-cup-thailand-girl

 

今回はオーストラリアを除く、東南アジアの11カ国と関係を深めようとする動きです。

既に4月1日に各国のU-14男子チームが来日し、日本を交えた12チームでトーナメントを始めています。この会場が堺のJ-GREENで、決勝戦の6日はAFF加盟各団体の会長・副会長・専務理事などが揃って観戦し、この後に同じ場所でJFAの田嶋幸三・村井満(Jリーグチェアマン)両副会長によるセミナーを開きます。そして9日には東京のJFAハウスで、東南アジアでは深刻な八百長への防止策をJリーグがプレゼンテーションし、その後に全体会議と分科会、そして田嶋副会長とAFFや東アジア地域の各連盟・協会関係者による合同記者会見を行う予定です。今回のリリースはこの2日の取材案内でした。

皆さんご存知のように、今年から「Jリーグ提携国枠」としてAFF加盟のタイ・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・シンガポール・インドネシアの6カ国はJリーグで1人分の追加登録ができます。今回のセミナーと合同会議は、この流れに沿って若年層での関係強化も進める動きですね。

 

○でも、さらに「乗り気」なのは……

ところがこのASEAN(AFF)諸国との交流、JFAは2013年12月15日に概要を発表していたのですが、もっと詳細な情報は、2014年3月27日付で外務省からこの「報道発表」で公表されていました。

4月1日   来日、オリエンテーション

4月2日   トレーニング、堺市長表敬訪問

4月3~5日 「U-14 日アセアン青少年サッカー交流」(堺・J-GREEN)
(日本を含めた12カ国によるトーナメント)

4月6日   同交流決勝戦(堺・J-GREEN、AFF加盟各団体会長等観戦予定)、レセプション、Jリーグ観戦(G大阪-鹿島、16時00分、万博)

4月7日   大阪市内見学(大阪城公園の桜)、新幹線移動、日産スタジアム見学

4月8日   東京都内見学(浅草寺・皇居・台場)、政府関係者表敬、商業施設訪問

4月9日   出国
(同日にJFAハウスでJFA・AFF・東アジア地域「合同会議」)

そして発表のタイトルは、「JENESYS2.0 日ASEAN青少年サッカー交流の実施」。

この「JENESYS2.0」についてはこんな解説が付いています。事業を実施するのは、外務省所管の独立行政法人である国際協力機構(JICA)との関係が深い一般財団法人、日本国際協力センター(JICE、http://sv2.jice.org/)です。

2013年1月18日,インドネシア訪問中の安倍総理は,2007年から実施したJENESYSの後継として,3万人規模でアジア大洋州諸国との間で青少年交流事業「JENESYS2.0」を実施することを発表。本件事業は,日本経済の再生に向けて,我が国に対する潜在的な関心を増進させ,訪日外国人の増加を図ると共に,クールジャパンを含めた我が国の強みや魅力等の日本ブランド,日本的な「価値」への国際理解を増進させることを目指している。

「GENESIS」だと旧約聖書の『創世記』、あるいはこの単語をファーストアルバムに盛り込んだイギリス(イングランド)のロックバンド、「ジェネシス」になりますが、これは最初の文字が「J」。"Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths (JENESYS) Programme"、日本語の正式名称では「21世紀東アジア青少年大交流計画」です。2007年の第1次安倍晋三政権の時に作られた計画が民主党政権でも続けられ、安倍が首相に復帰した2013年1月に新たな計画として「2.0」へとバージョンアップ(?)したこの計画は、アジア太平洋地域の青少年約3万人を日本へ招き、企業視察や観光地・展示施設訪問を含めた「日本ブランド」の国際理解を求めるという内容です。

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こっちが「Genesis 2.0」?
フィル・コリンズのヴォーカルで全米1位・全英3位を取ったアルバム"Invisible Touch"。

その中で、サッカーは日本とASEANで共通の人気スポーツとして取り上げられています。そもそもこの「U-14交流」も、東京で開かれた日本とASEAN諸国間の特別首脳会議の際に安倍首相から紹介され、その翌日にJFAが開催のリリースを出したものです。

去年から『新しい時代』に突入した感もある日本サッカーと東南アジアの関係強化には、もちろんその前からJFAが進めていた指導者派遣活動も大きく貢献しているはずですが、こういった日本政府の外交政策にも影響されている点に気を付けると、少し違った見方ができるのではないでしょうか。

<注:この「JENESYS 2.0」では、中国や韓国との交流事業も実施されている事を追記しておきましょう。両国との外交では難しい局面が続いていますが、これは「封じ込め」ではなく「相互理解」の政策です。>

ちなみに、2月22日にはスカパーがインドネシアで日本のテレビ番組を放送するチャンネル、「WAKUWAKU JAPAN」を開局しています。同局ではJリーグも放送し、今回のインドネシアのU-14チームも観戦したG大阪-鹿島戦も録画中継していました(次節は大阪ダービーの生中継)。また同チャンネル独自の企画として、インドネシアのユース年代の選手が現地トライアウトを経てG大阪のユースに練習参加し、その入団を目指すドキュメンタリーを制作したそうで、日本のスカパーでも番組の告知が流れていました。

もしかしたら、今回の会議日程や観戦試合の選定もこの企画と連動していたかもしれません。G大阪のトップチームが活躍する姿を見せればもっと大きな刺激になったでしょうが、そこで引き立て役にならず、万博で完勝する鹿島はさすがですね。

 

○「ジャナドリヤ祭」への落差

外務省やその関連団体による国際交流事業にJFAが協力する関係は、もちろんこれまでもしばしばありました。

私が覚えているのは、2011年の震災前にあったJFA月例理事会後の記者会見で、北澤豪特任理事(当時、現理事)がサウジアラビアに行き、現地でサッカー教室を開くというリリースです。ただ、これはJFAとしてではなく、JICAのスペシャルサポーターとしての活動を紹介するという形式でした。

これは、サウジアラビアでの大規模な「日本キャンペーン」と連動していました。サウジの首都リヤドでは毎年1回「ジャナドリヤ祭」という「伝統と文化の国民祭」が開かれていて、普段は映画や音楽などの娯楽が厳しく制限されている国民にとって数少ないお祭りです。この「ジャナドリヤ祭」では毎年「名誉ゲスト国」が定められ、特別パビリオン館で自国の文化や科学技術を大々的に宣伝できます。この試みの4回目で東アジアから日本が初めて選ばれたのだとか。実際には時期的に「震災と原発事故からの復興」が前面に出たようですが、それはそれで重要な機会になったようです。

日本貿易振興機構(JETRO)公式サイト内、2011年5月トピックス、「サウジアラビアの「ジャナドリヤ祭」日本館に出展-JAPAN Lifestyle Showcaseで日本の今を紹介-」
https://www.jetro.go.jp/jetro/topics/1105_topics1.html

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ジャナドリヤ祭の終了後、日本館の入口に集合したスタッフの写真。
<出典:在サウジ日本大使館公式サイト>

そして、このジャナドリヤ祭会場ではないものの、サウジ全土で展開される大規模キャンペーンで日本サッカーもJICAを通じて紹介されるという運びに。その説明をした田嶋副会長(当時は専務理事兼任)は、「これはとても名誉な事なので、皆さんぜひ宣伝して下さい」とお願いをしていたのですが……翌日のスポーツ紙やフットボール系のウェブサイトで「ジャナドリヤ」という名前が出る事はありませんでした。ただ一つ、その週のテレビ朝日系「やべっちFC」が、この時期に予定されていた(その後に中止)U-22代表の中東遠征とも絡めて触れたのが、少なくとも私が知る限りでは唯一です。

サッカーは世界中で人気の高いスポーツで、日本代表にも男女両方で多くのスポンサーが付いている事もあり、JFAは非常に多くの事業を手がけられるようになっています。その中から新聞やメディアが限られた時間や紙面の中で伝える動きは、代表絡みを中心とした「ニュースバリュー」のあるものにどうしても限られてしまいますが、このQolyはウェブマガジンですので、これからもこういった「ちょっと変わった動き」、あるいは「他の組織や活動と連動する試み」などを、私なりの視点でお伝えしようと思っています。


筆者名:駒場野/中西 正紀

プロフィール: サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。
ホームページ: RSSSF
ツイッター: @Komabano
フェイスブック: masanori.nakanishi

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