来年に迫るW杯オーストラリア大会に向け、代表強化期間中のラグビー界。日本代表「エディー・ジャパン」は大学生も含めた経験の浅い若手も積極的に起用するため、まだまだ安定した力が出せない状況でもある。そんな代表チームのなかで、フォワード陣とバックス陣をつなぎ、若手とベテランをつなぐ役割を担うチームリーダーのひとり、スクラムハーフの齋藤直人にスポットを当てたい。

縮まる「強豪オーストラリア」との距離。タクトを振るう齋藤直人の悔しさと手応え

8月、ラグビーW杯で優勝経験もある強豪オーストラリアとの2連戦に挑んだ日本代表。8月8日、大阪・花園ラグビー場で行われた第1戦は32対35の惜敗に終わったが、去年の対戦では4点差、そして今回は3点差。世界的強豪との距離が縮まっていることを印象付けた。

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しかし翌週、敵地オーストラリアでの第2戦。過去、一度も勝てたことのない相手に対し、いよいよ歴史的初勝利もあるか……という期待とはうらはらに、17対56という大敗を喫してしまった。

強豪との距離が少しずつ縮まったかと思えば、また広がってしまう。なかなかもどかしい代表チームにおいて、不動のスクラムハーフとして攻撃のタクトを振るうのが今月末に29歳を迎える齋藤直人だ。

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第2戦での大敗を見てしまうと、代表強化は大丈夫なのかと不安に感じる部分も正直ある。ただ、齋藤自身も過去、超えるべき壁をひとつずつクリアし、成長を遂げてきた人物だ。そんな齋藤の歩みを振り返れば、今のもどかしい時間も、前に進むために必要なプロセスなのかもしれない、と思えてくる。

挫折から「1日1日を積み上げた」日々——ライバル流大から引き継いだバトン

2019年、まだ大学生だった齋藤は代表候補に名を連ねながら、W杯の日本代表入りには届かなかった。当時の齋藤が口にしたのは、“本気度が足りなかった自分”への後悔だ。

「春先にケガしてしまって、自分でも『もう無理かな』とネガティブな思考になった時期があります。だから、W杯のメンバー発表があった時、どうして自分は本気で準備し続けなかったのか、悔しいというか情けない気持ちになりました。あの日から、4年後のW杯メンバーを目指して1日1日を積み上げていこう、と決意しました」

そのために大学卒業後の齋藤が選んだのは、東京サントリーサンゴリアスへの入団。齋藤が出られなかった2019年W杯で全試合「9番」をつけてプレーした日本屈指のスクラムハーフ、流大がいたからだ。

サンゴリアスで4年間を過ごした齋藤は、2023年W杯で9番をつけてプレー。得意の素早いパス回しで攻撃のタクトを振るい、自身もトライを決める活躍を見せた。サンゴリアスでも日本代表でも同じポジションを争うライバルであり、この2023年W杯で代表引退を決断した流大は、そんな頼もしい後輩をこう評していた。

「昔の僕ならライバルだから悔しくなるかなと思ったが、今回はそんな気持ちが一切無かった。心の底から、直人が良いプレーをしてチームを勝たせたのが嬉しかったし、心置きなく代表引退できるなと思いました。彼のような選手が、本当の意味でこれからの日本代表を引っ張っていく存在にならないといけない」

その期待に応えるように、齋藤はさらに高いレベルへと身を投じていく。W杯の翌年、世界最高峰のフランスリーグ「TOP14」の強豪、トゥールーズに移籍。“世界最強スクラムハーフ”とも称されるフランス代表アントワーヌ・デュポンと切磋琢磨する日々を過ごした。

フランスでの2シーズン、主に「デュポンの控え」という立ち位置ではあったものの、リーグ連覇を果たしたトゥールーズで34試合に出場。退団が決まった直後の試合では、トゥールーズのファンからスタンディング・オベーションされるほど地元で愛され、認められる選手へと成長を遂げた。

新司令塔との連携と指揮官からの信頼——歴史的勝利を手繰り寄せる牽引役へ

そして今、世界で積んできた経験値を、日本代表に還元しようとしている。現代表には大学生を含めた新戦力が次々と台頭しているが、帰国間もないなかでも寸暇を惜しんでチームメイトのことを知り、代表の新たな戦略を理解しようと努めている。

「フランスにいる時からコーチ陣とは連絡を取り合っていましたし、日本に戻ってくる飛行機では、日本代表のコールやサインプレーをまとめたプレーブックを読んで、プレーコールを覚えるようにしていました。去年は代表に参加できる時間が短く、なかなかチームに適合できなかった。あの時も自分の中では万全の準備をして臨んだつもりでしたが、何かが足りなかった。同じ轍を踏まないように、去年の夏以上に準備の量を増やして今季の代表戦に臨んでいます」

今季の代表期間でとくに会話をする機会が多いのは、10番としてハーフ団を結成する大学生スタンドオフの伊藤龍之介。ラグビーでは9番と10番の連携がアタックでの鍵を握るだけに、この2人にかかる期待は大きい。

「(伊藤と)映像で一番確認しているのは、どのエリアでボールを持つのか。どのエリアでボールを手放すのか。手放す場合はどんなオプションを考えるか。そういったことを話し合っています。部屋も同じになることが多いので、硬い感じではなく、普段の会話の中でもラグビーの話をしている感じです」

そんな2人の姿を見ていると、齋藤が代表に入りたてだった頃のことを思い出す。当時の齋藤にとって今の自分と同じような存在だったのが、大先輩のスタンドオフ・田村優(2019年W杯日本代表)だった。

「あの頃は優さんにすごくお世話になりました。自分が優さんから試合前の準備の仕方や心構えを教わったように、龍之介に少しでもいい影響を与えられたらいいなと思います」

実際、このハーフ団は試合を重ねるごとに連携を深めている。共にキックを自在に操って横にも前にも展開できることが強みであり、特に齋藤のキックはフランスでの経験を経て強度、精度ともにレベルアップ。8日のオーストラリア戦では齋藤・伊藤の連携を中心に攻め立て、伊藤の代表初トライにつながるシーンもあった。

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そんな齋藤に対し、指揮官エディー・ジョーンズHCの信頼も絶大だ。専門職のスクラムハーフはベンチメンバー8人のなかに交代選手を入れるのが通例だが、ここ2試合、その8人にスクラムハーフの選手はゼロ。スクラムハーフの控えを置かない……それ自体が齋藤への信頼の大きさを物語っている。

今の代表は伊藤龍之介を筆頭に大学生が複数名を連ね、ほかにも代表デビュー直後で国際経験が浅い選手も多い。彼ら若手たちの姿は、かつて田村や流から多くを学んだ齋藤とも重なる。ならば、今度は齋藤が若いエディー・ジャパンをどう導いていくのか。

先人たちから学んできた代表の重み、歴史をどう次世代につないでいくのか。その姿にも注目しながら、9月以降の代表戦を見ていきたい。

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【取材・文=オグマナオト】
ライター/構成作家。書籍執筆や構成、インタビューを手掛けるほか、テレビ朝日「報道ステーション」スポーツコーナー、プロ野球解説者YouTubeなどスポーツ番組での構成作家も担当。著書に『早稲田とスポーツ、覇者の150年』など。

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