リヴァプールに蔓延する上手くいかなさの正体とは?

リヴァプールのエンブレムに用いられているライヴァーバードは、港町であるリヴァプールの船乗りたちの守り神だ。しかし、現在のライヴァーバードをイメージするとしたら、窮屈な籠の中に閉じ込められた野鳥と言えるだろう。荒削りな部分もあるが、若く優秀な選手を揃えているはずのリヴァプールの攻撃は、最近機能不全に陥ることが多く、彼らはまるで空を飛べない野鳥のようにもがき苦しんでいる。そして、守り神を失ったリヴァプールサポーターという船乗りたちは、正しい方角を見出すことが出来ないままだ。ルイス・スアレスという、野性味溢れるリヴァプール最高の翼無しでは、最早今のライヴァーバードが大空へ飛び立つ術は残されていないのだろうか。

トッテナム・ホットスパーズ戦、主力を数人欠くトッテナムは攻撃をする意志をあまり見せないほどに守備を固めてきた。運動量が豊富で献身的な上下動を特徴とするジェイク・リバーモアを、名実共にトッテナムの守備を牽引するプレミア最高峰の潰し屋であるスコット・パーカーとダブルボランチに並べる事によって自分たちの本来の形では無い守備重視の布陣を組んできた。

それに対し、リヴァプールは非常に攻撃的なサッカーをしてきた。4‐3‐3のフォーメーションで攻撃的な選手を多く起用し、ボールポゼッションも高く保てていた。キャプテンとして攻撃を牽引し続けたスティーブン・ジェラードと、抜群の精度を持つキックを使いこなすパサーとして名を上げたチャーリー・アダムの二人を同時起用。圧倒的エース、ルイス・スアレスを交代要員として使う代わりに、中盤に決定的なパスを配球出来る攻撃的な選手を2人置き、3人のFWで攻撃に厚みを持たせてゴールを狙うという策が、リヴァプールが狙ったものだったはずだ。しかし、結果的にリヴァプールは「即席の守備固め」をしてきたトッテナム・ホットスパーズさえも、飛び道具としてのミドルシュートや、ルイス・スアレスという爆発力溢れるジョーカーのプレー以外ではイマイチ脅かせないまま終わっている。

これは、攻撃的な布陣で挑んだ事を考慮すると非常に物足りない結果といえる。では、そこに蔓延する「上手くいかなさ」とは一体なんなのだろうか。

次の図は、リヴァプールの組み立てのスタイルについて書いたものである。所謂、モウリーニョのチェルシー、今季のローマやマンチェスターユナイテッドのようにCBをサイドに開かせる組み立てを使用することで、両SBを前へ前へと押し出していく。そして、SBを起点にする事によって組み立てていくのがこのスタイルの特徴だ。リヴァプールもこのような組み立てを行っていたが、SBは両方が高い位置を取るというより、右のケリ―は少し控え目に左のG・ジョンソンを押し上げていくという形だ。そして、アダムが左に流れていく。また、ベラミーが左に開いたポジションを取るため、カイトは中に入ってきていた。また、ジェラードは比較的セントラルの位置でボールを引き出そうとしていた。

CBを開かせる組み立て自体は、非常にいい結果をもたらす。守備を固め前線にアデバヨール1枚を置いたスパーズは、どうしてもCBにプレッシャーをかけられず、高いラインまで2枚のCBとスピアリングによってある程度高いラインまでボールを運ばれてしまう。(後にスパーズもプレッシャーをたまにかけるようになる)しかし、リヴァプールはその先が上手くいかない。引いたスパーズを崩す上で、キャロルへの放り込みやミドル、ベラミーやカイトの突破といった散発的な攻撃は、効果的なものにはならなかったのである。相手が引いていたからこそ、中盤の底でバランスを取るスピアリングまで高い位置に飛び出すことによってバイタルエリアの人数を増やし、ミドルを撃つことには成功したものの、結局堅い壁に跳ね返され続けた。

図にある赤い円のエリアを見てみよう。恐らく、リヴァプールが攻撃において使うべきだったのはそのゾーンにおける密集である。このゾーンであれば、少なくとも同数、良ければ数的有利を作りだす事が可能であった。ここを起点としてパス回しで崩し、キャロルやカイト、ジェラードといったプレイヤーに中に飛び込ませる事が理想だったはずだ。しかし、現実はそうはいかなかった。アダムは、工夫無く強引にアーリークロスを上げまくり、ベラミーも独力での突破に拘ってしまった。G・ジョンソンもあまり効果的に使ってもらえていなかったように見えた。

ここで一先ず、このような密集を作るための一つの方法として、ミランがたまにやっている方法を紹介しよう。

これは、青い矢印の部分でビルドアップしながら攻撃力のあるアバーテを押し上げ、水色の丸の部分で密集を作り崩すというミランの組み立ての形式の一つである。このよう組み立てを偏らせることによって、攻撃力のある右SBアバーテを押し上げ起点とするだけでなく、チャンスがあれば右サイドにノチェリーノ、ロビーニョ、ボアテングなどで作り出した密集を使って崩す形がイメージ出来るはずだ。

リヴァプールもこのような形を作り出すべきだったのでは無いだろうか。キック精度の高いチャーリー・アダムは、アーリークロス専用機では無く、セードルフのように低めの位置で長い距離のキックを織り交ぜながら組み立てを指揮する役割を任せ、ノチェリーノの位置にはジェラードを絡ませる。ジェラードのような選手であれば、サイドとのワンツーのようなプレーも出来る上に、受けてからバイタルエリアに侵入する事も出来る。キック精度と足下が素晴らしいレイナの技術を組み立てにもっと使えれば、アダムや右SBの位置をより押し上げることでミラン以上に攻撃に枚数を割いていく事も可能である。本来は左サイドバックに入るホセ・エンリケの組み立てのミスの少なさも生きるだろうし、本来右SBに入るG・ジョンソンの突破力も左を囮にすればより効果的に使えるだろう。FWのどの位置でも、破壊的な突破と抜群のセンスを持つルイス・スアレスを使うことも出来る。個人的には、器用な彼をベラミーの位置で使う事によって、左サイドの密集での攻撃力を倍増させたいところである。

あくまで、これは4‐3‐3を使って左サイドを起点にするといった状況を前提としたものだが、私が考えるリヴァプールの一つの理想型が次の図となる。

近代フットボールにおいて、組み立ての形と崩し所をはっきりさせる事は、どうしても必要になってくる。それが無いと、それこそどうしても個人の能力やアイディアに頼りきりになってしまう。個々に輝きを放つ天才を揃えているからこそ、彼らに振り回されるチームとなってしまうのである。

事実、今季のリヴァプールがスアレスに「おんぶにだっこ」状態だったのは確かであり、「キング・ケニー」の無策は幾度となく露呈している。ルイス・スアレスという圧倒的な選手を戦術の中にどれだけ上手く適応させられるか、そしてチーム全体がしっかりと自分たちのやりたい事を共有出来るかが、リヴァプールが浮上してくる鍵になるだろう。それさえ出来れば、プレミアリーグという遥かなる空に高く舞い上がったライヴァーバードがマンチェスターの2チームを見下ろす事も、もしかしたらあるのかもしれない。それだけの力は間違いなく持っているチームなのだから。

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。

筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
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