ウディネーゼvsナポリ 「周到に張り巡らされた蜘蛛の巣」

ウディネーゼ対ナポリ。ラツィオも含め、CL出場権を得られる3位を争っている2チームの直接対決であると同時に、イタリアに3バックブームをもたらしたと言える二人の智将が率いるチームの対戦となった。

粗削りながらも個性的で才能溢れる若手が揃うウディネーゼを率いるのは、かつて「ミラクル・ヴィチェンツァ」で旋風を巻き起こし、なおも躍進する56歳のフランチェスコ・グイドリン。一方ナポリを指揮するのは、そのグイドリンの下でボローニャ時代に研鑽を積み、ナポリでは圧倒的なトリデンテによるカウンターという武器を磨き上げ、今年はCLでも話題を提供した50歳のワルテル・マッツァーリだ。

はたしてカルチョを代表する監督同士の一戦はどのような結末を迎えたのであろうか。

まずは、スターティングメンバーを見てみよう。

ELやCLの過密日程や、怪我人などの影響から、互いにフルメンバーでは無い面子が起用された。ウディネーゼは若手のファッブリーニ、ペレイラを抜擢すると共に、怪我で離脱中のベナティアの代わりとしてコーダを選択。ナポリは、ラベッシとハムシクに代わり、ジェマイリとパンデフを2シャドーのような形で配置した。

ナポリの狙いは明白で、2シャドウによってパツィエンツァの両脇を突く事によってバイタルエリアを掌握する事であった。さらに、そこにインレルを送り込む事で中央で数的有利を作り出し、そして絶対的エースであるカバーニのマークを軽減させて得点を奪う、というのがマッツァーリのプランだったはずである。

だが、序盤こそ、その目論み通りに進ませてしまったウディネーゼであったが、途中でシステムを修正する。そして、この調整こそが、ナポリを何重にも絡め取る“蜘蛛の巣”を生み出したのであった。

スニガ、パンデフのサイドから攻撃を仕掛けてくる事に気付いたグイドリンは、パスクアーレの位置を引かせて4バックのような形にする事でシステムを調整。アサモアを左サイドハーフにして、フラットな4‐4‐2に近い形を整えた。

それによって、図で示したように各選手の役割が明確化。2対1の数的不利を作られる局面が無くなり、スニガとカバーニは2人で上手く見る形が出来上がった。そして、対応しようと動いたナポリという名の“蝶”は、“蜘蛛の糸”にその美しい翼をさらに絡め取られる事になる。

封じられた起点である右を攻略する枚数が足りないとなると、カンパニャーロがボールを持ち上がる事でチャンスを作ろうとする。ただ、これによって赤い円のスペースは手薄になってしまう。さらに、パスクアーレとアサモアが共にボールに速い段階でアタックにいくのでは無く、出来るだけ自陣へと誘い込む事によってカウンター時にスニガ、カンパニャーロと長い距離を競争する状況を作り出し、よりカウンターを成功させやすくしていた。

そして、アサモアは自分で仕掛ける事はほとんどせず、ひたすらカンパニャーロを引きつけてスペースを空けながら、パスクアーレなどをワンツーで走らせた。さらに、ウディネーゼは赤い円のスペースにディナターレ、ファッブリーニ、パスクアーレを走らせる事によって左サイドから多くのチャンスを作り出した。

1点目は、前線でボールを奪い、右サイドに流れたファッブリーニからのクロスをピンツィが決めた形ではあるが、2点目のパスクアーレのクロスからのゴールなどは、繰り返した左サイドからの攻撃が実を結んだものだと言えるだろう。2点目は、ピンツィが左サイドにドリブルで侵入。空いたパスクアーレに預けてニアに走り込んで自らヘディングシュート。ポストに当たったこぼれ球をディナターレが押し込んだものであった。この時も、左サイドの深いスペースにまでナポリの選手たちは戻り切れていない。

また、もう一つ触れなければならないポイントがある。それは、「どうしてピンツィはここまで前に走り込めるのか」という点である。後ろでバイタルエリアをケアしていたはずのピンツィが、何故かカウンターなどの時にディナターレを追い越すようにゴール前に走り込んでいるのである。この秘密は、実はウディネーゼの守り方に隠されていた。

戻りきれる位置の時だったり、守りを固めたいシュチュエーションの時だったり、ボールがサイドにあったりする時には基本的にピンツィがインレルについている。ただ、インレルが中央で持った時、パツィエンツァが楔のコースをしっかりと潰しながらボールに行く瞬間が存在している。

個人的に「迎撃」と呼んでいるこのパツィエンツァの動きが起こると、3バックも連動してしっかりと自分のマークを捕まえにいく。リスクのある、この守り方をする時にはピンツィがインレルの守備という仕事から解放され、カウンターの時に備えながら、機を見て前線に走り込む事が出来るようになったのだ。

これをされてしまうと、ボールロスト時にインレルがピンツィに追いつくことは難しい。元々、これはウディネーゼが日常的に行っていた守備の方式ではあった。主に、カウンターを撃ち合うスタイルのウディネーゼにとって、博打ではあるが中盤の底に入る1ボランチがボールホルダーを潰しにいかない訳にもいかないという状況での守り方だったのだ。前からプレッシングをかけるチームも、前に人数をかける為にバイタルを捨てるこのような守り方を好んで採用している。だが、パツィエンツァの加入によってバイタルを捨てて守る博打だったこの守り方が大きく変わった。これまでは対カウンター用だったこの守り方を、パツィエンツァの優れた状況判断能力と楔をきっちりと塞ぐポジショニングセンスによって、攻撃に移るスイッチとなる守備として使えるようになったのである。ある意味で、インレルが上がって攻撃に絡めば絡むほど、ウディネーゼにとってはカウンターを仕掛けるチャンスでもあったのだ。ここにも、ナポリ封じの罠は存在していたといってもいいかもしれない。

最終的には、60分に、若きアタッカーであるファッブリーニが2枚目のイエローカードで退場になったおかげで、怒涛の攻めを見せられたナポリが何とか引き分けに追いついた。しかし、畳みかける集中力と破壊力、そして個人の能力に関しては確かに上回っていたものの、チームとしてはナポリはウディネーゼの完成度には届いてない印象を受けた。ある意味で、マッツァーリとしては古き恩師から最高のレッスンを受けたとも言えるのではないだろうか。

今回の一戦は今季の中でも、個人的には上位に入る面白いゲームだった。ナポリとウディネーゼは、ユヴェントスやミランといった強豪に完成度や個人の能力では差を付けられているだろう。ただし、彼らはまだまだ若く、底知れないポテンシャルを持つチームだ。師匠と弟子によって率いられた無限の可能性を持つ2つのチームが、これからのセリエAをより面白くする事に期待したい。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。

筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
ツイッター @yuukikouhei

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想などはこちらまで(@yuukikouhei)お寄せください。

{module [170]}
{module [171]}

【厳選Qoly】なぜ?日本代表、2024年に一度も呼ばれなかった5名

ラッシュフォードの私服がやばい