1つのサイクルが終わりを告げた。

ミランのアレッサンドロ・ネスタ、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、フィリッポ・インザーギ、マルク・ファン・ボメル、ジャンルカ・ザンブロッタの退団が決定。契約が切れるクラレンス・セードルフも退団濃厚。昨年の同時期のアンドレア・ピルロ退団に続き、世界中のミラニスティは哀愁の時を過ごしている事だろう。

彼らの退団で2002-03シーズンにチャンピオンズリーグを制覇したメンバーは契約延長の決まったキャプテンのマッシモ・アンブロジーニと守護神クリスティアン・アッビアーティのみが残ることになる。サッカー界には「サイクル」という言葉があるが、2002-03シーズンから続くサイクルが完全に終わった事を意味するのは明らかだ。

少し過去に遡ろう。2002-03シーズンの開幕前、ミランは大きな変革に動く。長年ミランを支えてきたデメトリオ・アルベルティーニやセバスティアーノ・ロッシが退団。ハビ・モレーノ、ホセ・マリ、コスミン・コントラ、パブロ・ガルシアらスペインから移籍してきた選手たちも戦力外として放出された。代わりに加入したのは当時から世界屈指のセンターバックだったネスタとセレソン・ブラジレイラの10番であるリヴァウド。そして、インテルからセードルフ、クロアチア代表のダリオ・シミッチ。フェイエノールトからはヨン=ダール・トマソンがフリー・トランスファーで加わった。

そして、現在に繋がる新しいサイクルが始まった。本来トレクアルティスタであったピルロをレジスタに据えた4-3-1-2ツꀀという革新的なシステムの登場である。堅守速攻型のチームが有利と言われるセリエAで、ポゼッションを重視したテクニカルなサッカーを展開。数値の上でも相手チームを圧倒するボールポゼッションを記録した。そしてこのシステムでチャンピオンズリーグを制覇。セリエAでは4-3-1-2のブームを巻き起った。現在ミランを率いるマッシミリアーノ・アッレグリがカリアリ時代からベースとする4-3-1-2は、カルロ・アンチェロッティの4-3-1-2に起因することを長年のセリエAファンであればご存知のことであろう。

2002-03シーズン当時、プリマヴェーラ組を除く主力メンバーの平均年齢は約23歳だった。10年後の現在の平均年齢が約28歳である事を考えると、当時のミランがチームとしてどれほど活力を持っていたかは容易に想像できるだろう。事実、現役のブラジル代表10番でありワールドカップを制覇した直後のリヴァウドはチームにフィットできず、エースであったアンドリー・シェフチェンコも負傷の影響で満足の行くシーズンを送る事ができなかった。それでもミランは強固な守備力とピルロを中心とした画期的なサッカーでチャンピオンズリーグを勝ち取ったのである。

しかし、2002-03シーズン以降のミランは、貯蓄を吐き出しながら、移籍で補填する路線を採用したと言わざるを得ない。ロナウド、ベッカム、ロナウジーニョなどの超大物選手の加入はあったが、彼らはいずれも峠を過ぎた選手であり、2002-03シーズンの主軸に取って代わる移籍組、ユース出身者はなかなか表れなかった。主軸が年を重ねるたびにチームは経年劣化。そして唯一大きな怪我もなくチームを支えたカカがレアル・マドリーへ移籍。この間、安定的に成績を残してはいるが、獲得した主なタイトルはCL2回、スクデット1回、コッパ・イタリア1回、CWC1回。カルチョポリ、インテルの復活があったとはいえ、画期的なピルロ・システムを採用し、欧州で恐れられたチームにしては物足りない数字ではないだろうか。

その後のミランはアンチェロッティ、カカ、そしてパオロ・マルディーニの退団のショックを引きずった2009-10シーズンを3位で乗り切ると、2010-11シーズンはアッレグリ体制で7シーズンぶりのスクデットを獲得。強烈なインパクトを残すズラタン・イブラヒモヴィッチ、インテリジェンスを見せつけるロビーニョ、世界屈指のセンターバックに成長したチアゴ・シウバ、成長するイニャーツィオ・アバーテ。多くの人々が「新たなサイクルが始まった」とミランを賞賛した。

しかし、ミランの「新たなサイクル」は本当に始まっているのだろうか?

2002-03からのサイクルとは明らかに異なる筋肉質のチームになったアッレグリのミランだが、今季は上位対決で辛酸を舐める機会も多く、今季はユヴェントスとの激しいスクデット争いに敗れた。ユヴェントスが無敗優勝を達成する驚異的なチームであった事は差し引かねばならないが、来季以降もアッレグリ体制の継続、つまり結果を残せなければ「新たなサイクル」は始まらず、「過渡期」として終わってしまう可能性をはらんでいると私は考える。たとえ、イブラヒモヴィッチが強烈なインパクトを残そうとも。

イタリアサッカー史に残るビッグチームの終焉。彼らが残したインパクトは非常に大きかった。

「一つのサイクルとなるビッグチームを作り上げる事は非常に難しい」

そう感じさせないサッカーを来季のミランに期待したい。

<2002-03シーズンのミランのメンバー表>

背番号 ポジション 名前 現在 当時の年齢
1 GK ヴァレリオ・フィオーリ 引退 33
2 DF トーマス・ヘルヴェグ 引退 30
3 DF パオロ・マルディーニ 引退 33
4 DF カハ・カラーゼ ジェノア(今季で引退) 24
5 MF フェルナンド・レドンド 引退 32
7 FW アンドリー・シェフチェンコ ディナモ・キエフ 25
8 MF ジェンナーロ・ガットゥーゾ ミラン(退団) 24
9 FW フィリッポ・インザーギ ミラン(退団) 28
10 MF マヌエル・ルイ・コスタ 引退 30
11 FW リヴァウド 引退 30
12 GK ヂーダ 引退 28
13 DF アレッサンドロ・ネスタ ミラン(退団) 26
14 DF ダリオ・シミッチ 引退 26
15 FW ヨン=ダール・トマソン 引退 25
16 DF ホセ・アントニオ・チャモ 引退 32
17 DF クライトン・マシャド・ドス・サントス バーリ 17
18 GK クリスティアン・アッビアーティ ミラン 24
19 DF アレッサンドロ・コスタクルタ 引退 36
20 MF クラレンス・セードルフ ミラン(退団濃厚) 26
21 MF アンドレア・ピルロ ユヴェントス 22
23 MF マッシモ・アンブロジーニ ミラン 24
24 DF マルティン・ラウルセン 引退 24
25 DF ロッキ・ジュニオール イトゥアーノ 25
27 MF セルジーニョ 引退 30
28 MF サムエレ・ダッラ・ボーナ マントヴァ 21
30 FW マルコ・ボリエッロ ユヴェントス 20
31 MF イブラヒム・バ 引退 28
32 MF クリスティアン・ブロッキ ラツィオ 26
33 MF レオナルド 引退 32
34 FW アレッサンドロ・マトリ ユヴェントス 18
35 GK シモーネ・ブルネッリ 不明 不明
36 MF ステファーノ・パストレッロ エステ 18
37 FW ロベルト・ボルトロット トリー・ティウム 18
38 FW ダヴィデ・ファヴァーロ 引退 18
39 FW ミケーレ・ピッコロ フィオレンツオラ 16
41 MF マッティア・ダル・ベッロ 死亡 18
42 DF ミルコ・ステファーニ レッジアーナ 18
43 GK アレッサンドロ・ヴェンディッティ 不明 不明
44 MF パトリック・カランバイ マリーノ 18
45 MF マッテオ・ジョルダーノ サンレメーゼ 17
46 MF ウィリアム・ナーヴァ 不明 不明
83 MF カティリナ・オーバメヤン サパン 19

(筆:Qoly編集部 N)

{module [170]}
{module [171]}

{module [173]}

【Qolyインタビュー】J2ジェフユナイテッド千葉DF岡庭愁人が母校の先輩からもらった言葉…未知のコンバートを乗り越え「熱くて、強い選手になる」