鹿島アントラーズのサポーターにとって、今シーズンは"もどかしさ"を味わったシーズンになったことだろう。

カップ戦では、2年連続でナビスコ杯を制覇し、天皇杯も戴冠の可能性を残しているとはいえ、終盤まで残留争いに巻き込まれリーグ戦は、クラブ史上初となる2桁順位で終了。今季は“喜び”よりも“悲しみ”の方が多かった1年であった。

今回の『ロッシの鹿島リポート』では、激動の今シーズンを振り返っていきたい。

・痛かったスタートダッシュの失敗

数々の栄光をもたらしたオズワルド・オリヴェイラ(現ボタフォゴ監督)が退き、クラブOBのジョルジーニョを新監督として招聘した今シーズンだったが、開幕から5試合勝ち星に恵まれず、苦しいスタートとなってしまった。

ジョルジーニョはキャンプから、これまでのアントラーズの伝統である『ボックス型の4-4-2』ではなく、新機軸の『4-3-1-2』を試行し、変革の動きを見せていた。アントラーズにはボールスキルに優れたテク二シャンが多いだけに、このシステム変更は成功すると筆者は睨んでいたが、この新機軸で臨んだベガルタ仙台との開幕戦では、前線の連動性が無く、攻撃の形ができないまま0-1で敗れてしまう。この後の試合でもノーゴールが続き、指揮官は選手たちの体に染みついた『ボックス型の4-4-2』に戻したが、結局、新機軸の『4-3-1-2』が機能と言えるのは、大逆転勝利を収めた第7節のセレッソ大阪戦くらいのものだった。この新機軸が上手くハマらず、序盤に勝ち点を思うように稼げなかったことが、終盤まで残留争いに巻き込まれた要因のひとつだろう。

・ジョルジーニョの功績

前述したように、新機軸の『4-3-1-2』は機能したとは言い難かったが、今季限りでアントラーズの監督を退任するジョルジーニョが残した功績は決して小さなものではない。それは、指揮官の積極采配がもたらした「若手の成長」だ。

前監督のオズワルド・オリヴェイラはスタメンを固定して戦うことが多かったが、ジョルジーニョはオリヴェイラ時代にはあまり考えられなかった積極的な若手起用を見せ、彼らの飛躍へと導いた。その筆頭がベストヤングプレーヤー賞を受賞した柴崎岳だろう。

昨シーズンから一定の出場機会を得ていた柴崎だが、今シーズンは31試合に出場し、アントラーズの中盤に欠かせない選手へと成長を遂げた。ナビスコ杯決勝では、2ゴールをマークし、MVPを受賞するなど、その成長ぶりは“うなぎのぼり”と言って良い。そう遠くない未来に海外移籍を果たす可能性が高いとみているが、来シーズンも柴崎の更なる成長ぶりを確かめたいところだ。

更に、柴崎と同様に31試合に出場し、自らの背番号と同じ9ゴールを挙げた大迫勇也も今シーズンに飛躍した若手選手のひとりだろう。ロンドン五輪メンバーからの落選という挫折をバネにすると、シーズン途中から採用された『4-2-3-1』の1トップとして、ポストプレーとフィニッシュの面で絶大な存在感を放った。ナビスコ杯でもゴールを量産した大迫の来シーズンが今から楽しみである。

また、32試合に出場し、キャリアハイとなる6ゴールをマークした遠藤康。序盤戦に出場機会を得て、エネルギッシュな動きでチームに活力を与えた梅鉢貴秀。ナビスコ杯決勝で左サイドバックとして起用され、大前元紀(現デュッセルドルフ)を封じた昌子源の活躍ぶりも際立った。残念ながら、彼らにチャンスを与えたジョルジーニョはチームを去ることになってしまったが、内田篤人(現シャルケ)ら若手を積極起用し、栄光のオリヴェイラ時代を演出したパウロ・アウトゥオリ(現カタール代表監督)のケースのように、新監督の下(12月8日現在は未定)、新たな「黄金時代」の幕開けを期待したい。

・ ジョルジーニョに花道を!

今シーズン限りでの退任が決定したジョルジーニョだが、天皇杯終了まではチームを率いることになっている。ナビスコ杯連覇、前述した「若手の成長」はジョルジーニョの手腕によるところが多かった。また、審判の判定に鬼の形相で抗議する姿、ピッチの近くで大声で指示を飛ばし、チームを鼓舞する姿はとても熱いものであり、その姿が好きだった筆者にとって、ジョルジーニョの退任は残念でならない。

ナビスコ杯、スルガ銀行チャンピオンシップのタイトルをサポーターにもたらしてくれたジョルジーニョを最高の形で送り出すには、天皇杯の優勝しかないだろう。残り少ないジョルジーニョ政権だが、元日の国立競技場で最高のフィナーレを観れるよう祈りつつ、筆を擱きたい。

2012/12/8 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。

 

筆者名 ロッシ
プロフィール エル・シャーラウィ、ネイマール、柴崎岳と同世代の大学生。鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援しています。野球は大のG党。
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