ジョルジーニョの後を継ぐ監督がついに決まった。トニーニョ・セレーゾ、57歳。2000年から2005年までアントラーズを率い、就任1年目から3冠(Jリーグ、天皇杯、ナビスコ杯制覇)を達成した名将が再び指揮を執ることになった。
今回の『ロッシの鹿島リポート』では、トニーニョ・セレーゾに寄せる期待と1月12日までに決まった移籍について、筆者なりの意見を述べていきたい。
・新監督に期待すること
トニーニョ・セレーゾは、2000年にJリーグ史上初となる3冠を達成するなど、大きな成功を収めた監督として、多くのサポーターの記憶に残っている。アントラーズの伝統・歴史を良く知るこの指揮官は、過渡期を迎えている現在のアントラーズを任せるにふさわしい人物だと言えるだろう。
アントラーズが伝統とするのは、粘り強い守備と鋭いカウンター、セットプレーを軸とした”したたかなスタイル”である。このスタイルで数々のタイトルを獲得してきた訳だが、この伝統を熟知するトニーニョ・セレーゾが再び指揮を執るというのは、大変心強い。ブラジル人路線の継承を決断し、トニーニョ・セレーゾの招聘に成功したフロントの仕事ぶりは評価に値するものだ。
ジョルジーニョが率いた2012年シーズンの序盤は、新機軸の「4-3-1-2」が上手く機能せず、非常に苦しんだ。しかし、「4-2-3-1」を導入した第27節のガンバ大阪戦以降は巻き返しに成功し、ナビスコ杯制覇、天皇杯ベスト4など上昇の気配を見せた。豊富な経験を持つトニーニョ・セレーゾには、終盤戦に見せた”勢い”をチーム力に還元し、シーズンを通して安定した力を発揮できるようなチームを作っていただきたい。
また、この新監督にはジョルジーニョが飛躍させた大迫勇也、柴崎岳、遠藤康、昌子源といった若手たちの更なる成長を促してもらいたい。特に、大迫や柴崎はA代表に呼ばれてもおかしくない逸材であり、トニーニョ・セレーゾの指導によって、A代表に定着し、活躍できるような選手へと変貌させて欲しいところだ。
・アントラーズを去りゆく選手たち
トニーニョ・セレーゾの就任に前後して、新シーズンに向けた移籍も活発になってきている。ここからは、これまでに公式発表された移籍について語っていきたい。
まずは、セレッソ大阪へと移籍する新井場徹だ。2004年にガンバ大阪からアントラーズへとやって来たこの実力者は、毎シーズンレギュラーとして活躍。内田篤人がシャルケに移籍してからは、本職の左サイドバックだけでなく、右サイドバックも遜色なくこなした。また、有事にはセンターバックでもプレーするなど、チームのために常に貢献したプレーヤーであった。更に、そのプレーぶりや人間性から女性ファンだけでなく、男性ファンも多かった。愛する家族のために大阪復帰を決めた新井場には、心から感謝したい。
次は、浦和レッズに移籍する興梠慎三だ。鵬翔高校から2005年に入団し、2008年からはアントラーズのエースナンバーである「13番」を柳沢敦(ベガルタ仙台)から継承するなど、類まれな身体能力と抜群のスピードを併せ持つ興梠に対する周囲の期待は高かった。本人も
「エースナンバーに見合うほどチームに貢献できたかは分かりませんが、チームメイト、スタッフ、フロント、そして何よりもサポーターの皆さんに支えて頂き、選手として大きく成長できたと感じています」
(http://www.so-net.ne.jp/antlers/news/release/34210)
と語るように、時に厳しいサポーターとともに成長した選手であった。それだけに、上位争いのライバルとなるレッズへの移籍は大変歯痒いが、新天地でのプレーには是非とも注目したい。
更に、興梠と同じ鵬翔高校の出身である増田誓志もアジア王者である蔚山現代(韓国)へと新天地を求めた。増田と言えば、2011年シーズンの活躍が印象深い。モンテディオ山形での武者修行を終え、逞しく成長した増田は中盤センターのレギュラーをシーズン途中から完全に掴み、正確なサイドチェンジなどで確かな存在感を放った。その活躍ぶりはA代表のアルベルト・ザッケローニ監督の目にも留まり、日本代表にも選出されるなど、充実のシーズンを過ごしたのだ。しかし、2012年シーズンは、コンディションの問題からベンチ外となる試合が多く、進境著しい柴崎にポジションを奪われるなど不本意なシーズンであった。ナビスコ杯決勝でのプレーを見る限り、貴重な戦力としてこれからも活躍が期待できると筆者は感じていたが、環境の変化を求める本人の意思は固く、新たな挑戦を選択することとなった。またしても「常陽銀行の顔」が移籍してしまうが、韓国での活躍を楽しみにしたいと思う。
本来であるならば、26歳の興梠、27歳の増田、2011年シーズンに海外挑戦のため退団した伊野波雅彦(27歳、現ジュビロ磐田)といった中堅どころの選手たちの移籍は避けなければならなかった。これからのアントラーズを引っ張るべき存在、しかも日本代表クラスの選手がチームを去るという事態は想像以上に深刻だ。海を渡った増田、伊野波はともかく、ライバルである浦和レッズに興梠が移籍したという事実は、アントラーズの価値が低下していることを暗に示している。今後もこのような事態が続けば、競争力の低下は間違いないだけに、新シーズンはリーグ戦で上位に食い込むことが何よりも大事になってくるだろう。
また、シーズン途中に加入し、攻撃陣を牽引したドゥトラ(ベルギー1部のロケレン)とレナト(レンタル元の広州恒大へ)の退団も発表された。前者は持ち前のドリブル突破で幾度となくチャンスを演出し、後者は正確なプレースキックが光った。特にドゥトラは欧州へ挑戦するということで、かつてJリーグで活躍し、セレソンに上り詰めたフッキ(ゼニト)のようなサクセスストーリーを期待したい。
・アントラーズにやって来る選手たち
ここまでの補強の中で一番の補強となるのが、ヴィッセル神戸から1年ぶりに復帰する野沢拓也だろう。野沢の持ち味は正確無比のプレースキック。2012年シーズンはレナトが加入するまで、「お家芸」とするセットプレーの得点力が大幅にダウンした。それだけに野沢の復帰は間違いなくプラスである。筆者は野沢のスキルを生かしたプレースタイルが大好きであり、個人的に「ミスター・クライマックス」の復帰は大歓迎だが、野沢自身が
「サポーターの皆さんの中に賛否両論があることは当然のことで、自分としてはそれを真摯に受け止めていかなくてはならないと思っています」
(http://www.so-net.ne.jp/antlers/news/release/34261)
とコメントしたように、サポーターの中には野沢の復帰を快く思わない方もいらっしゃるかもしれない。だが、ヴィッセルでキャプテンを務めるなど、サッカー選手として更なる成長を遂げた野沢がもたらすものは決して少なくないはずだ。再びアントラーズのユニフォームを身にまとう野沢の姿が今から待ち遠しい。
更に、2012年シーズンをヴァンフォーレ甲府で過ごし、32得点を挙げ、ヴァンフォーレのJ2優勝・J1昇格に多大なる貢献を果たしたJ2得点王のダヴィ(カタールリーグのウム・サラル)、J2の舞台で14ゴールをマークし、ジュビロ磐田との争奪戦を制して獲得した中村充孝(京都サンガ)、愛媛FCでキャプテンを務め、新井場の後継者としての活躍が期待される前野貴徳の獲得がすでに決定。J2から実力者たちを補強し、確実に戦力値を高めている印象だが、頭数が足りないフォワードや空きのある外国人枠に関しては、今後も補強の噂が絶えないだろう。フロントがどのような選手を獲得するか、大変注目である。
・最後に
2012年シーズンはカップ戦こそ成績が良かったものの、リーグ戦ではかつてないほど苦しみ、辛い1年となってしまった。2013年シーズンはこのような事態にならないよう期待しつつ、熱い声援を送りたいと思う。新シーズンもアントラーズの情報をお届けしたいと考えておりますので、今年もよろしくお願い致します。
2013/1/13 ロッシ
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | ロッシ |
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プロフィール | エル・シャーラウィ、ネイマール、柴崎岳と同世代の大学生。鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援しています。野球は大のG党。 |
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