南米の強豪として多くの欧州でプレーする選手を揃えるウルグアイが、レギュラーメンバーの大半を連れて来日したのは当然の成り行きだった。W杯の南米予選で苦しんでいるチームにとっての特効薬を探すために、指揮官オスカル・タバレスは必死になっているのだから。無駄にすることが出来る試合など1つとしてない立場にあるウルグアイにとって、ある意味で既にW杯出場を決めている日本と意識の差が生まれてくることは避けられなかった側面もある。更に言えば、レギュラーとして活躍しているようなブンデスリーガ組のコンディションは開幕から数日後ということで極めて悪く…ある意味では南国ブラジルの気候という大きな問題に直面したコンフェデに続いて「逆境」で日本がどれだけやれるかを試された試合でもあったことだろう。

今回タバレスが選択したのは、攻撃的なプランだった。テクニックを売りにするMFで、トップ下を本職としているニコラス・ロデイロをボランチとして起用。多少のプレースタイルの違いはあるものの、日本でいえば本田圭佑をボランチに起用するようなスタイルによって中盤を攻撃的に組織した。ウルグアイには試している3つほどのフォーメーションがあり、1つがこの「ロデイロを中盤のボランチに配置することによって、自慢の2トップに上手くボールを運んでいく」ことで全体を押し上げていく「対格下、同格のチーム」用の攻撃的なオプション。そして、フォルラン、カバーニ、スアレスという3トップで攻撃を完結させるカウンター重視のオプション(南米選手権優勝時はこれを採用した)。そして、両ボランチに守備的な選手を配置して8人で守って2トップとサイドアタッカーに任せていく「ブラジル、アルゼンチン用」の守備的なオプションである。ウルグアイ代表は、ブラジルやアルゼンチンといった強豪に対する際には、チームとして成熟した守備的なオプションで堅実に勝ち点を狙うことが出来る。しかし、同格や格下との試合において上手くバランスを保つことが出来ないという課題も抱えているのだ。また、特に厳しい状況にある現在の南米予選で求められているのはコロンビア、ペルー、エクアドルといった相手にしっかりと得点を重ねて勝ち点3を奪うことだ。だからこそ、今回はロデイロを中盤で起用することに踏み切ったのだと類推できる。

そして彼らにとっては「重要な実験」となる日本戦が始まった。1つ大きな課題として浮かび上がったのがそのロデイロの守備意識である。守備に参加する姿勢自体は見せたものの、そのポジションは本来のトップ下に近いポジションになってしまい、中盤中央の守備をガルガーノ1人に任せてしまう場面が目立った。そうなってくると中央に流れ込んでくる香川や本田といった日本代表自慢のテクニカルなアタッカー陣を抑えきれず、結局両サイドのアタッカーが中央に絞ってガルガーノの両脇をサポートし、3ボランチのような形を形成することになってしまった。

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この形こそが狙いで、ロデイロを高い位置に残すことが目的だった可能性も全くない訳ではないが、それにしては3ボランチの形になった時に彼らの位置取りが中途半端だった印象を受けたことから、恐らく結果的にそのようになってしまっただけなのだろうと考えるのが妥当だ。本来はウルグアイにとって2トップと共にカウンターで活躍する両サイドのアタッカーが守備に忙殺されてしまったことは、攻撃的なフットボールを志向しようと考える中では問題だ。実際ロデイロを経由した攻撃がそこまで機能していなかったという点にも触れておかなければならない。結果的に、上手く下りてきながら自分を追い越す味方を使っていくフォルランと自由自在にスペースを動き回るスアレスのコンビで前線の速攻はある程度完結しており、そこにロデイロを絡めていくことは成功しなかった。シンプルな攻撃で得点を奪ってみせたものの、ゆったりと前線を押し上げてからロデイロがパサーとして起点となる形でゴールを奪えたのは4点目のみ。しかも、川島の飛び出すタイミングのミスがなければ得点していなかった可能性も高い。そういった意味では彼らのロデイロ起用に関する実験は成功とは言い難い。逆にセリエAでの得点王経験のあるカバーニ不在にも関わらず攻撃的な姿勢を貫いて4点を奪えたことは大きな収穫であり、攻撃的な姿勢を貫くことからある程度の失点は織り込み済みであったことを考えれば2失点してしまったこと自体もそこまで大きな課題にはならない。理想を言えば、もう少しボールを持つ形を構築したかったところだが、その辺りは現状を考えれば我慢しなくてはならない部分ではある。

最後にウルグアイ代表目線で見た日本代表、について考えていきたい。イタリアとの親善試合ではカバーニ、フォルラン、スアレスの3トップで攻め、残りのメンバーで守っていくような守備的なサッカーを構築したことを考慮すれば、日本というのはロデイロを起用し、攻撃的に振る舞うこと出来るレベルのチームだとみなされているということになる。それは当然として考えても、ここで主軸を呼び寄せてまで攻撃的なオプションを試したことから、日本の評価は比較的高いことも伺える。南米予選で今後当たることになっている同格、格下のチーム(コロンビア、ペルー、エクアドル)程度の実力はあると見られているのだろう。ボールをしっかりと保有しようとする意識があり、強豪国と当たり慣れていることから「引いてブロックを作る」ことを得意としているようなヨーロッパのチームよりも、短いパスを繋ぎながら守備を切り崩すようなサッカーを好み、テクニック自慢のアタッカーを揃えていることから、南米予選で当たるチームに近いと見なされたことは想像に難くない。

そこで興味深い点は、現在の日本が南米的だとみなされている点だ。本田、香川、清武、乾…ヨーロッパでも活躍するように高いテクニックを持った選手たちが個でこじ開けていくような攻撃を見せる一方、ハイラインを保っていく守備対応や中盤のフィルターとしての能力には甘さも残る…コンフェデでも露呈したこのような特色は岡田監督時代の日本代表を表現する際に用いられた「献身的な運動量を基調にして、しっかりと守備を固めるチーム」といったキーワードとは大きく性質を異にする。ザッケローニ監督の下で、作られた「世界と戦うチーム」は皮肉にも「格上の足元を掬う」チームではなくなってしまった。ある意味では日本が攻撃的に優秀なタレントを揃え、いい試合が出来るようになった一方で、オープンな展開になるような試合展開が散見されるようになり、「個」の実力差がはっきりと表れるようなそんな試合が増加しつつあることも事実である。こういった現状をイタリア人ながら攻撃的なフットボールを得意とするアルベルト・ザッケローニがどのように改善していくのか、W杯までの時間をどのようにマネージメントしていくのかは非常に興味深いところでもある。また、攻撃的なサッカーを目指していく中でこのような課題に直面していくのは避けられないことであり、ある意味では世界において「中堅国」とみなされるようになるためには避けられない苦しみなのだろう。この苦しみにまで至れるほどの急速な日本サッカーの成長を、むしろ歓迎するべきなのかもしれない。


 

筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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