ロンドンに来て以来、コーヒーを飲む機会が増えた。毎日かならず1回は飲んでいる。日本にいた時は毎日は飲んでいなかった。しかし、ロンドンに渡英してからというもの飲む回数は圧倒的に増えている。不思議なものでそうも飲む回数が増えると味がわかったような気分になり、自分の気分に合わせてコーヒータイプを変えたりする。

コーヒーには気分を高めたり、逆に落ち着けたり、集中をさせたりと豆の種類や煎れ方によって様々な効果がある。私がコーヒーをすするときは大体なにか考え事をしているときである。だからおそらく私がよく行くコーヒーショップはリラックス効果があるブルーマウンテンを、中煎りさせて脳の働きを活性化させるコーヒーの入れ方をしているのだろうと思う。

さて、ここで私には気になることが。あのとき、ドルトムントの指揮官、ユルゲン・クロップはどんな気持ちであのコーヒーをすすっていたのだろう。ということである。

10月22日。UEFAチャンピオンズリーグ、グループステージ第3節アーセナル対ドルトムントの一戦のテレビ中継での一幕でのこと。1‐1で折り返したハーフタイムでのこと、芝の手入れとピッチに水を撒くスプリンクラーの画から画面がパッと映り変わったときだった。

この日、グループステージ初戦のナポリ戦で審判の判定を不服とし、激しく抗議した末、退席処分となり2試合のサスペンデットとなり、スタンドからチームの様子を見ていたクロップ。画面が切り替わった瞬間、テレビの画面には彼がピッチを眺めながらサンドウィッチらしきものを片手にコーヒーをすする姿。監督のこういった姿はあまり映されることない。ピッチを見つめコーヒーを飲み、ピッチを眺めるその姿はさすが元テレビマン。どこか様になっているように私は感じた。彼はこの時何を考えていたのだろう。

ゲーム後半のアーセナルを見る限り、アルセーヌ・ヴェンゲルはかなり攻めに転じてきていたと推測する。普段ならばもう少し、慎重にバランスを保ちながらゲームメイクをするアーセナルにしては珍しい転じ方であった。実際、試合後の会見で「慎重さを欠いてしまった。その代償を払うことになった」とヴェンゲルはコメントしている。

そんなヴェンゲルの出方を知っていたかのようにドルトムントは後半、ボールを奪う位置を下げ、守備陣を自陣エリアできちんと修正。完璧なまでの守備から速攻・カウンターの形を作り上げた。その結果として81分にドイツから駆け付けた黄色い軍団の真ん前で生まれた決勝ゴールを生んでいる。

自陣でボールを奪い、右サイドに展開し、開いていたグロスクロイツがサイドを自力で突破。そしてファーサイドでフリーで待っていたレヴァンドフスキに合わせてゴール。この時、フリーで待っていたレヴァンドフスキのポジショニングの良さもさることながら、それ以上に注目すべきはゴール前にいた人数。アーセナルの守備3人に対し、ゴールを決めたレヴァンドフスキを含め4人が入ってきている。自陣でボールを保持しているところからわずかに10秒たらず。これはチーム全体がきちんと連動しているということの証明になるだろう。

私が思うにクロップはベンチには座れないものの人づてに指示をしていたはずである。そしてコーヒーを飲みながら敵将のフランス人が後半にどう動くかを冷静に読み、チームの意識をきちんと統一させることを考え、それを実行させた。あのコーヒーブレイクは彼にとって、またドルトムントにとって素晴らしいブレイクタイムになった。それを証明する素晴らしい一夜であった。


筆者名:羽澄凜太郎

プロフィール:現在ロンドン留学中。1993年1月25日生まれ。東京都多摩市出身。小学生の時は野球少年であったが小学6年の時に生で見たレアル・マドリーの面々に感動し、本格的にサッカーを好きになる。

中学卒業頃からライターを志すようになり、高校卒業後、専門学校東京スクールオブビジネスに入学。そこでマスコミやライター、編集などのノウハウを2年間学ぶ。


ツイッター:@randyrin

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