後編その1》へ戻る。

 

とにかくこのクラブには、経済的な余裕がない。あくまでも「売る」側のクラブであって、「買う」側ではないためだ。身の丈に合わない補強は、成績以前に多額の借金、果ては債務超過という爆弾となって、クラブを焼き尽くすことになる。

しかも、これだけチームが不振の状況にあっては、売りたいものも売れないことを忘れてはならない。弱小クラブで充分に活躍もできていない選手に、誰が大枚を叩いてくれるというのか? 世界的な不況がフットボール界にも影響を及ぼす昨今、そんな夢物語はどこにも存在しない。

よってこの状況、このタイミングで選手を売買することは、クラブにとって少なくない損失をもたらすことになる。買うは高し、売るは安しになるからだ。

それでも代替の効く選手を、可能な限り高額で売り抜け、現在チームに欠けているピースを補充しなければ、1部に生き残ることはできないと判断すれば、出費を覚悟(言うならば借金してでも、ということになる)で選手を入れ替えていくしかなくなる。決して楽な道にはなるまい。

続いて後者、現所属メンバーの可能性を信じるアプローチについて。これは現在のチームに大きく欠けている、確固たるアイデンティティと自信を取り戻させることを主眼においたものだ。そこを改善できれば、充分チームは戦える……と判断し、選手の自信回復のため、いくつかの施策を打つ訳である。

例えばOBの来訪、あるいは参画。レジェンドと呼ばれる元選手たちの叱咤激励は、古今東西、ありとあらゆるクラブで見受けられるイベントの一つである。アドバイザーとしてクラブの側に寄り添い、日頃からチームの練習をチェック、度々練習場を訪れて激励していく……小さな変化ではあるが、この際は馬鹿にできない。特に若い選手には、プラスの効果が得られやすいものだ。

小規模、小予算内で、引退間近のカリスマ溢れるビッグネームを連れてくるのも、この一種に入る。最もわかりやすいのはフットサル日本代表が、J2横浜FC所属の三浦知良、通称『カズ』を招集したケースだろう。

彼はコート内では、決して中心選手になり得るクオリティを有してはいなかった。だが、カズの練習姿勢、その貪欲さや必死さにチームが触発され、グループは一丸となっていった。更には急増したマスコミの報道が、選手にかつてない緊張感と自負を与えた影響もあって、あれだけの成績を残すことができたことは記憶に新しい。

 ピッチ上にいる選手たちのポテンシャルを信じ、それを充分に引き出すために予算内で可能な限りの手を打つ。特に予算の制約から考えると、現在の状況で適したオペレーションに感じられる。だが、フロントがどう判断するかまではわからない。

このクラブは少なくとも、優良なDFを安価で獲得できるほどの、力を入れたスカウティングは行えていない。いたずらに予算を費やして中途半端なクオリティの選手を連れてくるのはリスクが高い。それよりはピッチの前から後ろまで、全員が必要な状況で必要な守備的タスクを負い、守り切る意思を高める方がはるかに現実的だろう。

個人的には、この状況でチームに加える選手は、点取り屋がベストではないかと思う。攻撃面でカリスマやキャラクターを持つ選手を迎え、

どれだけ苦しい展開でも、あいつにさえボールを繋げばきっと活路を切り開いてくれる
と味方が信頼し、拠り所にできるだけの決定力を持つFW。そんな選手の獲得が上策ではないだろうか。

危機にあってこそ、人の真価は試される。同クラブのフロントのお手並みを拝見するには、またとない機会と言えるのかもしれない。

肝に銘じていただきたいことは、どの道も平坦ではないこと。

ここまで失敗を重ねて傷を深くした以上、何らかのリスクを負わない限り、残留という目的は果たせないということだ。

○日本人2人をどう評価するか

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最後に、日本人選手2人についても触れておこう。端的にまとめると、清武は主にピッチ内、長谷部は主にピッチ外での貢献性を高める必要がある。

ここ最近の3~4試合を観戦しただけでも、清武の不振は深刻だ。出すべき時にパスが出せず、進むべき時にドリブルできず、撃つべき時にシュートが撃てない。明らかに混乱している。周囲の不調どこふく風、自分だけは孤高のパフォーマンスを保ち続けてなんぼの助っ人が、引きずられて調子を落としていては始末におえない。

最優先事項は判断力の向上、つまり脳の回復だ。技術的にはチーム内で指折りのクオリティを持つ以上、後はプレーを選択する頭の健康こそが肝要と言える。現在の清武には、目の前のプレー一つひとつに集中しきれるメンタルコンディションが、決定的に欠けている。

無論そこには、ライバルクラブたちのスカウティングが進み、しっかりとした清武対策が成されるようになった影響も少なからず存在するだろう。だが、そうしたプレッシャーのある状況下でなく、充分に余裕を持ってプレーできる状況下ですら凡ミスを連発してしまう……そんな現在の清武は、およそ助っ人として正しい役割を果たしているとは言い難い。

日々の練習で回復が難しければ、クリスマス休暇中には、フィジカルコンディションを崩さない程度に遊びまくるのもよい。気分転換は、フットボーラーの重要な仕事である。他人の手助け、家族や恋人に安らぎを求めるのも極めて有効な手段だ。愛はフットボーラーを、不振のクラブを救うものである。心の平穏なくして、十全なプレーなどできる訳もないのだ。

一方長谷部は、清武とは対照的に、ピッチ上での働きに不満はない。流石は3年前、南アフリカの激戦を勝ち抜いた男である。自分にできることとできないことのラインが、この男の中ではハッキリと引かれている。チーム合流直後から不慣れなタスクをこなさざるを得ない状況の中で、攻守両面で及第点以上のプレーぶりと評価できる。

しかし、ここまでの長谷部誠の出来は、ある意味では義務を果たしているに過ぎない。少なくとも筆者はそう見るし、現地の厳しいファンも同じ意見ではないか。チーム内で指折りの高給取りである上、プレーヤーとしてクラブの期待に応えることは、そもそも当然の責務だからだ。

となれば、今後求められるのは、それに加えたプラスアルファ。強いリーダーシップの発揮などが、これに該当する。

一例を挙げてみよう。例えば激しい叱咤激励がチームにとって最適と判断した場合、この男にそれができるだろうか? チームにショックを与え、憎まれ役になってでもグループをまとめあげるような、骨太のリーダーになれるだろうか。

現在のところ“表向き”メディアに流れてくる情報は、彼の振る舞いをポジティブに報道するものばかり。だが、緊急厳戒態勢にあるクラブが情報統制を敷くのは必然だ。これらの情報を素直に鵜呑みにすることはできない。あるいは2、3戦も連敗が続けば、そんな空気も一瞬で消し飛ぶだろう。そうなった場合に、小規模な修正は得意でも大きな変化が苦手な男が、己にそれが成せるか? ここが焦点になる。

ちなみに監督のフェルベークには、およそそのような特性はない。それどころか、前所属のAZでは、複数選手たちとの関係悪化による退団を余儀なくされている。強い情熱やキャラクターを持ってはいるが、必ずしもそれがプラスに発揮されるとは言えないタイプと視ることができる。

とは言え長谷部も、本来はお世辞にも、こうした役割が向くタイプではない。そもそもインタビューや著書、関係者の談話等から分析するに、性格的適正が低い。

ここでいう『骨太』とは、時に味方同士で衝突することも辞さず、波風を立てて選手たちの感情の揺れ幅を大きくし、それを束ねてエネルギーとすることで、グループを一つの方向性へ導くことを指す。言わずもがな、心も体も集団も整えるのが信条の彼にとっては、容易ならざる仕事である。

それでもチームのために、新たな負荷を自分に課して、新境地を切り開くか? あるいは今までに培ったノウハウを発揮し、長谷部流でチームを再生させるか……? それとも、チームの危機を救えないまま、また新たな十字架を背負おうか――残り17 試合、残された時間はあまりにも少ない。

残留という一大ミッションは、助っ人の働きだけでは勝ち取れない。いくら彼らが気を吐いたところで、どうにもならずに奈落の底まで転げ落ちてしまう可能性は十二分にあり得る。

だが、彼ら2人の力なくして勝ち取れないものであること。これもまた確固たる事実なのだ

(了)


筆者名:白面

プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者です。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。
ブログ:http://moderazione.blog75.fc2.com/
ツイッタ ー: @inter316


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