散髪に行くとき、遠慮知らずの少年だった私はたいてい、雑誌を切り抜いたハリー・ キューウェルの写真を持っていた。彼がプレーしていたデイヴィッド・オレアリーのリーズ・ユナイテッドは、リーグ戦では我らがマンチェスター・ユナイテッドの手ごわいライバルだったが、敵ながら応援したくなるような魅力を持ったグループだった。そうして私は“いつもの新しい”髪形、純白のユニフォームに身を包み、「ゴメン」と愛するユナイ テッドに断りを入れて練習場に向かったものだ。

読者の方々にとっては実にどうでもいい前置きであったろうことを反省し、本題に移らせていただきたい。今回私がお伝えしたいのは、ずばりサクセスチームの条件である。そしてそれを、サイドバックというポジションから解剖してみよう、という具合だ。

ここ数年の欧州フットボールシーンにおける主流は間違いなく4-2-3-1であった。現代フットボールの代名詞である前線からのプレッシングと流動性は、より組織的、連動的な“守備 の”グループを結成し、“勝つ”ことよりも、より“負けない”フットボールを確立してきた。そしてそれは、ピッチから専門的なポジションを奪い、選手はフィールド上で様々なタスクを担うこととなった。多くのクラブにおいて、最前線から守備のチェイシングを始め、攻撃の開始を告げるパスはバックラインから展開される(私に言わせれば、このポジションの多様化を最も高いレベルでこなす、現代サッカーの象徴はウェイン・ルーニーである)。

そして、このキャンペーンを完成させるにあたって新たに生まれたポジションこそがサイドバックだと言えるだろう。元を辿れば(私は生まれてさえいないが)ディフェンダーは2枚であり、そこから我々にも馴染みの深い3バックへ、そして近年のサイドバックを含めた4枚のディフェンダーシステムが生まれている。片方のサイドバックが上がれば、逆サイドは絞ってセンターバックの働きを、長短のパスで攻撃の合図を出し、敵のサイドアタッカーをマークしながら、自身もサイドハーフ、ないしはウインガーのような役回りまでこなす。実に様々な役割を任され、文字通り攻守に渡りピッチを駆け回るのがこのポジションである。我らが日本人プレーヤーの中でも特にサイドバックが多く海外で活躍し、挙句の果てには本職でない長谷部誠や、細貝萌がこのポジションにつかされていることは、このポジションが手抜きの許されない勤勉なハードワーカーとしての資質、そして状況に応じた適切な判断力が不可欠なポジションであることを、ある程度証明していると私は感じている。近年の接戦においてジョゼ・モウリーニョやアルセーヌ・ヴェンゲルが終盤にみせるサイドハーフのポジションにサイドバックのプレーヤーを投入して、逃げ切りを図る戦術も、この“なんでも屋”の男たちが、単にスペースを埋める動きと対人守備が上手いことに加え、“攻撃という守備”も質を落とさずに遂行出来るからのように私は思う。

先日ふとヤング・リーズの象徴としてキューウェルと共にサイドを制圧した男のことを考えた(やっと前置きが活きた)。イアン・ハートは、「プレミアリーグの歴史で5本の指に入る左サイドバックは?」と聞かれたら、おそらく私がデニス・アーウィン、ギャリー・ネヴィルの次に挙げる名前だろう。“ゴールデン・レフティ”の異名をとり、抜群の破壊力と精度を誇る左足で、サポーター(と私)の心を鷲づかみにしていた。そしてなによりも彼には非常に高い、戦術ならびに連携理解の良さがあった。この男と、ダニー・ミルズが両サイドに構えたリーズがイングランドはおろか欧州の舞台で躍進する姿は、実に頼もしい光景であった。

では、ここのところのプレミアリーグ上位におけるサイドバック事情について考えてみる。

ここまで、折り返したタイトルレースの首位を走るのは、アルセーヌ・ヴェンゲルのアーセナルだ。メスト・エジルの加入が大きな影響を与えたことは否定できないが、私は今季のこのチームにおいて、キーラン・ギブスの活躍が非常に大きいと感じている。ガエル・クリシが抜けてからアーセナルは左サイドバックのファーストチョイスに悩んでいた印象があったが、ここにきてようやくその後継者を見つけ出した。その意味では、ポジション争いを狙ったナチョ・モンレアルの補強は大いに吉と出たと言っていいだろう(数年前まで私はアルマン・トラオレに期待していたが…)。この男がナイジェル・ウィンターバーンやアシュリー・コールの手にした栄光を取り戻すカギであることは間違いないだろう。

そして、現在そのアシュリー・コールが所属するのは、私がチャンピオンチームに予想するチェルシーである。モウリーニョは、昨季チームに加わり準レギュラーに甘んじていたセサル・アスピリクエタの本領発揮を見るや、すぐさまスターティングスカッドに加えた。7年間レギュラーを守るコールのいる左サイドは本来のアスピリクエタの適正ではないが、モウはブラニスラフ・イヴァノヴィッチの必要性とマンネリ化したチーム内の雰囲気、そしてこのポジションをいじることの価値を理解していたように思える(さすがはモウリーニョ)。現にフォワード陣がほとんど点を取れていない中で、タイトルレースの先頭集団に居残り、中盤以降のプレーヤーの得点が多いことから、チームの総合的なアビリティ、そして体躯の良さがうかがえる。エヴァートンのシェイマス・コールマンとレイトン・ベインズ(彼が不在の時に主役に躍り出たのはバックアッパーのブライアン・オビエドだった)は間違いなく上半期のリーグでベストの存在であり、ジョン・フラナガンの活躍は、ルイス・スアレスと共にリヴァプールの勢いを示すアイコンになっていたはずだ。ニューカッスルのマテュー・ドゥビュシをベストに選ぶ方も多いだろう。

反対に、スパーズはヤン・ヴェルトンゲンの負傷から勝ち点を取りこぼし、ずるずると順位を落とし(序盤戦は内容が悪くても勝つことが出来ていた)、サウサンプトンもナサニエル・クラインとルーク・ショウのコンビの出場が減ると共に、チームの輝きは失われてきている。そして我がマンチェスター・ユナイテッドにおいても、ラファエルの負傷やパトリス・エヴラの不安定な(というか彼に関してはガタがきている)によって冴えないシーズンを送っている。このようにトップハーフのチームの調子とサイドバックの台所事情はある程度リンクしている、と見ていいのではないか。

フットボールにおいてしばしば、センターのポジションの総称に“背骨”という表現が用いられるが、サイドバックというポジションはそれにおける血液であり、筋肉である。“ブレーン”であるプレーメーカーの指令。“ハート”であるダイナモと共に身体中を駆け巡る彼らの活躍にもう少し注目して、後半戦を観てみてはいかがだろうか。


筆者名:榎本耕次

プロフィール:90年代後半から2000年代初期にかけてフットボールに目覚める。マンチェスター・ユナイテッド一筋。ユナイテッド、プレミアリーグ関連の記事を中心に、自由なトピックで執筆中。一番好きな選手はロベルト・バッジョ。アイドルはデイヴィッド・ベッカム。あまり大きな声では言えませんが、正直圧倒的にイングランド代表を応援しています。なにかあればTwitterアカウント: @KJE_Footballまで。異論反論大歓迎です。
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