マキシミリアーノ・アッレグリの指揮するACミランは掴み所のないチームだった。戦術をシーズンごとに変更し、相手の読みを常に外し続けるように闘う彼らは、戦力的な不安を「日替わりのヒーロー」を生むことによって払拭し続けた。アントニオ・ノチェリーノ、ケビン・プリンス・ボアテング、ステファン・エル・シャーラウィ…多くの選手がアッレグリの戦術によって光を放ち、それ故に次のシーズンでは戦術の変更によって苦しむことになった。

昨シーズン、後半の圧倒的追い上げによって3位にまで這い上がり、優勝したユベントスのアントニオ・コンテにさえ「一体何が起こっているのかわからない恐ろしさがある」といった趣旨のコメントをさせたほどの、予想出来ない選手運用と多彩な戦術で闘い抜いたセリエA随一のオールラウンダーが去った今、ACミランに求められるのはチームとして闘えるような確固とした型の完成だ。

クラレンス・セードルフという男

クラレンス・セードルフ。ブラジルリーグのボタフォゴで選手を続けていた彼をACミランが指揮官として突如招聘したのには理由がない訳ではない。世界一の呼び声高いアヤックスアカデミーの中でも「最高傑作」と讃えられ、ピッチ外では様々な言語を使いこなす頭脳派。イタリア有数の名指揮官と知られるカルロ・アンチェロッティの下で長期のプレー経験があることも監督としては大きなプラスだ。ユースとはいえ、ミランで1年の指導経験を積ませたフィリッポ・インザーギではなく彼を選択したことには大きな期待が伺える。

聡明でありながら、メンタル的なアプローチの重要性を理解しているところもキャプテンなどでプレーした十分な経験から来るものだろう。スマートにノートを取りながら戦術の指示を出し、大学の若手研究者のようなイメージを持たせたインテルの前指揮官アンドレア・ストラマッチョーニと比べると雰囲気の差も歴然だ。熱く選手を鼓舞し、兄のようにマリオ・バロテッリと接する姿を見せる行動派の指揮官には、ACミランのサポーターも大きな期待を寄せているに違いない。

ミランに蔓延る病的な問題

しかし、いくらクラレンス・セードルフが素晴らしい指揮官になる素質を秘めているとはいっても未経験で突然ACミランという名門を率いるプレッシャーはとんでもなく大きいものだ。その過大な期待は、少しの失敗で激しいブーイングに変化してしまう。

本コラムでは26日に行われたカリアリ戦を見ながら、まずは現在のミランが抱えるシンプルかつ重大な問題について考察していこう。カリアリの若き指揮官ディエゴ・ロペスは、ミランの抱える問題点を熟知していた。だからこそ、前線3枚を高い位置に留めてボランチへのパスコースを遮断。そこから一気にチャンスと見ればCBのボールを奪い取りにいったのである。

cagliari-vs-milan

足元に不安が残る上に、スピーディーなアタッカーに対応することを得意としないセンターバック2人は怖がるようにボールを持ち運べない。いつものようにデ・ヨングとモントリーヴォを中継役にしたいが、パスコースは切られている。この状態からサイドバックにボールを出しても、上手く残った3人でプレッシャーをかけられてしまう。このように露骨に蓋をされ、弱点を狙われてしまったことでACミランのリズムは明らかに狂った。

攻撃に移っていく場面でも、俊足揃いのアタッカー陣に裏をつかれるのを恐れるように前に上がれない。そうなれば図のようにデ・ヨングが守備でカバーしなければならない距離はどんどんと広がり、逆にGKとCBの距離はどんどんと狭くなってしまう。守備が多少手薄になってでも3枚を前線に残すカリアリの勇気ある決断が当たったのである。カリアリの先制弾はGKアメーリアのミスキックから起こったことではあるが、それ以前にもGKとのCBのパス回しで危険な場面を作られていたように、予想外の失点というよりは予期可能なミスであったはずだ。

セードルフが探す「解決への糸口」

アッレグリはどちらかといえば、上がれなくなってしまったDFラインを「カウンター志向」にすることで解決しようとしたところがあるが、セードルフは異なったアプローチを試みている。それが「中央よりもサイドを組み立てにおいて使っていく」という方法である。

イングランド、BTスポーツの実況が「どこかアンチェロッティを思い出させる」と述べたように、セードルフのサッカーではサイドバックがより組み立てに関わることを求められているように見える。また、ロビーニョと本田を起用したことからも解るように、サイドの選手は「縦にスピードで突破する」ドリブラーとしての役割以上に「サイドバックからの縦パスを受けて起点として機能すること」を求められている。まだ上手くいかない時期から続く心理的影響と、本田に対する信頼の弱さからか、本田にボールが入った時にDFラインをしっかりと押し上げられている訳ではないものの、本田が「ボールを奪われない」ことをプレーによって示せば、戦術のキーマンとして機能する可能性も高い。中央のカカやバロテッリといったエースに頼る、単調なフットボールではなく、よりサイドから組み立てながらアタッカーがポジションチェンジを繰り返すスタイルをセードルフは思い描いているのだろう。

特に後半、パッツィーニを投入してバロテッリを左に張らせたことでセードルフの理想とするフットボールが解りやすく見えた。デ・シリオを左サイドに回して正確な縦パスを供給すると、ボールを受けたバロテッリはフィジカルを生かして積極的にドリブルで切れ込むなどチャレンジ。圧倒的な存在感を放ち、逆転へと繋げた。

セードルフは、バロテッリが見せたような積極的なカットインを本田にも望んでいるはずだ。中央でプレーすることになれば屈強なセンターバックとぶつからなければならないが、サイドであれば背負うことになるのはサイドバックやウイングバックが多い。フィジカルでやり合える本田であれば、相手を抑え込みながら前を向いて仕掛けていくプレーもこなせるはずである。この日はあまり見られなかったが、練度が上がってくればカカが機動力を生かしてサイドに流れて本田のサポートをするような場面も増えるだろう。勿論中央への走り込みによって何度もあったように決定機を得ることも難しくない。

このようなフットボールをする上では、ボールを奪われないキープ力とシンプルに繋げる利他性を兼ね備える本田への期待は大きい。守備の押し上げを促進し、攻撃ではカカとバロテッリを輝かせ、隙を見て自らもゴールに絡む。新指揮官セードルフが、どのように今後チームを復活へと導くか。名門復活に、新指揮官の下で本田圭佑が大きく寄与することを祈りながら筆を置くことにしよう。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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