昨期の優勝チームがここまで成績を落として敗戦しているのだから、様々なところから批判されるのは仕方ない。ただし本質を見誤った批判は程度の低さを明確にするだけである。

【魔境にて不運がもたらしたプラン崩壊と修正マネジメント】

魔境ブリタニアにて敗戦。不甲斐ない内容ではあったがそれを招いた大きな要因は最終ラインの二人が怪我によって前半のうちに離脱してしまったことだろう。ベンチ入りメンバーにセンターバックがおらず、空中戦を武器にする相手に前半でスタートのセンターバックが二人怪我で交代してしまった、という状況をあなたが応援するクラブもしくは自分たちに置き換えて考えてみて欲しい。

簡単な状況でないことはお分かり頂けるだろうか。

モイーズはストークの高さあるハイボール対策の為に、右のサイドバックにスモーリングを置いた。前回の対戦にて、エブラにクラウチを当てられて苦戦したが、エブラの代わりにビュットナーが対応できるとは思えない。ただやられるにしてもエブラだけに絞れればやられても対処もしやすい。しかしこれは10分少々で崩壊する。

エヴァンスの怪我によってラファエルを入れざるを得ない状況になってしまい、ストークにペースを握られた。左右どちらからもファーにクロスを上げられれば、高さ的なミスマッチが生まれてしまう。ストークの2点目はまさにその形から生まれたものだ。もちろんアダムのあのシュートは止めようがないことにも触れておこう。

最初の失点も不運だった。壁の作りが甘かったような気もするが、パワーキッカーのFKの場合ああなることはしばしばある。デ・ヘアはノーチャンスだった。問題は、点は獲られてもそれ以上獲ればいい、という姿勢をイマイチ表現しきれなかったことだろう。前線のビッグタレントは試合では初の組み合わせだったことで連携不足だと感じさせる場面は多く、まだまだ時間がかかるだろう。観ている側にとっては大枚はたいて買ってきた分、美しい即興をすぐにでも見せてくれるのではないかという期待があったと思われる。現実はそこまで甘くない。

ユナイテッドの本来持つとされる攻撃力やタレント性を考えればそんな状況でも圧倒してあたりまえ、と思われても仕方ないのだろう。もちろん運任せのマネジメントなどこのレベルではあってはならないことは当然だ。どのような立場であれ失望気味も見解が目立つのは、苦しい時にこそ真価が問われるという状況でユナイテッドがひっくり返すようなポジティブなアクションを起こせなかったことに起因するのだろう。モイーズのマネジメント力の底が見えたような扱いになっているのはこのためだ。もちろん結果故に否定はできない。皆、サー・アレックスならば、ガムを高速で噛み、第4審判に食って掛かって選手を刺激しピッチとベンチに多大なる影響を与えて最後に逆転してしまう、といったシナリオを何度も見てきたせいでこの辺りの評価は非常にシビアで敏感なのだ。

【ビルドアップの重要性とクオリティ不足のクレヴァリー】

点を奪いにいかなければならなかったが、それを全面に押し出せなかった原因の一つがビルドアップの質の低さだろう。キャリックは復帰して前節より幾分マシになるかと思ったが、クレヴァリーのビルドアップ能力の低さは相変わらず目を覆いたくなるレベルだった。モイーズが起用している理由もイマイチ分からない。それ以外にピッチ上で何かを表現していたかと言われるとほぼゼロに近い出来であり、個人的にはこの試合における最低点の選手にあげたい。

矢が素晴らしい威力を持っていようとも、弓が酷いものであれば威力のある矢を飛ばすことはできない。ビルドアップの重要性はまさにそこにある。これまでも当コラムで何度も指摘してきたが、この点を改善しない限り前線のタレントが能力を十分に発揮することはないだろう。いい形でアタッキングサードまでボールを供給することができていない。

センターハーフだけの責任には出来ない。スモーリングとジョーンズは共にイングランドの代表キャップを持つ選手ではあるが、ビルドアップスキルに関しては高い技術を持たない。エヴァンスはこの二人に比べれば問題ないレベルにあるが、ファーディナンドほどではない。ビルドアップスキルに関してはユナイテッド史上最高のセンターバックと言えるファーディナンドの存在は非常に大きい。彼がいるといないとではビルドアップの質が全く違うことはユナイテッドを愛する皆さんであればお分かりだろう。ファーガソンが引き継ぐにあたってのミスはこの点において最終ラインの世代交代を誤ったことだろう。モイーズもファーディナンドの扱いに失敗した感はあるが、ビルドアップが出来るファーディナンドの後継センターバックを確保出来ずにいるのは何も現体制だけの責任ではない。

マタやルーニーを高い位置に留めておくことができるようなビルドアップができるのであれば状況は改善するだろうが、現状は少し難しそうだ。そのためにはマタが前節の前半に見せたような形で下がって受ける必要がある。そうすることでルーニーまで下がりきる必要がなくなるからだ。そういった意味では不本意ながらも、キャリックがセンターバックに下がり、ルーニーが中盤に入るという繋げる縦のラインが出来上がった。だがウェルベックがワイドに開かずにファン・ペルシーと並ぶような形になった故にマタは右に開き気味になってしまった。タラレバではあるがマタをトップ下に置くために右にヤヌザイでも良かったように思える。

ウェルベックを投入したことでどの様に打って出るか気になったのだが、中途半端なものに終わってしまった。ベンチワークの中途半端がそのまま現れた形だ。ウェルベックを最前線に置いたのであれば前線から彼にチェイスさせることが出来る。ただしストークは中途半端なクリアボールでもマイボールに出来る高さがある為に、この点のリスクマネジメントをする必要があった。ウェルベックを最前線に投入したのであれば、裏を獲られる覚悟を持って最終ラインを押し上げてボールを狩りに行くべきだった。しかしヤング、マタ、クレヴァリーと軽量級が中盤に3人もいる状況では付け焼刃的なプレッシングでボールを狩るには不十分だ。そう考えればウェルベックではなくフレッチャーを投入して土台を固めるべきだったように思える。

そういう意味ではファン・ペルシーとチチャリートを入れ替えたのもあまり効果的では無かった。小さなメキシカンの一撃必殺に掛けるような気持ちは分からなくもない。事実何度もそういったゴールを決めてきているチチャリートだ。しかし、ほぼ効果的とは言い難かったクレヴァリーを残すくらいならば、フレッチャーを投入することでビルドアップが改善し前線の立て直しが出来た可能性があったのではないか、と考えられなくもない。常に事後にコラムを書いているせいか難癖つけてタラレバを推察することに慣れきってしまったが、試合中にも何度も感じていた。

しかし改めてストークというクラブは分かりやすいクラブだということを感じた。ただベンチから出てきた選手がアイルランドやアサイディといったテクニカル寄りの選手であり、単調な高さと肉弾戦だけではないという印象を植え付けられた。

【解任と叫ぶのは簡単だが】

昨期優勝クラブの結果が出ない、という状況はメディアや他のクラブにとって実に美味しい話だ。今までの鬱憤を晴らすかのようにあれこれ騒ぐいい機会だからだ。結果が出ないことで叩き叩かれるのはプロの常であることは間違いないだろう。その原因の一端がフロントとマネージャーたちにあることも否定はしない。一貫しないように見えるモイーズの采配を見ていればそう言いたくなる気持ちも理解できる。ただし、ユナイテッドとしては長期的なマネジメントの中においてデイヴィッド・モイーズを選んだのだ。短期的に結果を出すことを優先するのであれば、他の優秀なマネージャーでも良かったのかもしれない。もちろんこの選択が失敗に終わる可能性も否定はしないし、失敗に終わった時にはさらなる大きな批判とツケが回ってくることだろう。しかし人生は選択しなければならない。何が正しくて何が間違っているかなど、人生が終わるまでわからないのだ。

囲碁や将棋やチェスといった競技において、悪手と思った1手が後々効いてくることがしばしばある。もちろんそれが悪手のままか絶妙な1手となるかは今後次第だが、それは誰にもわからない。あなたにそれがわかるというのなら今すぐエージェントを雇って世界中に売り込むべきであり、モウリーニョとグアルディオラに並ぶ名マネージャーとして世界に名を轟かせるはずである。きっとプレイステーションでプレーする以上のスリルと興奮と給料が味わえるはずだ。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー:@db7crsh01

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