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この処分の問題点の煽りをもろに受けたのが浦和フロントであり、大多数の浦和サポーターたちだ。

個人的見解で言えば、浦和の淵田社長が発表した施策は、強硬で極端に過ぎる。

まず、横断幕の一切を禁止したのは、言語道断な対応だ。よりリスクとサポーターの損失が少ない対応を、選ぶことはできなかったのだろうか。例えば受付窓口を設け、使用物の表・裏の模様を確認し、正式な認可を得さえすれば、大手を振って応援に使用できるようにする等、工夫の使用はあったのではないか。

確かに、一つひとつ確認する必要がある分、運営面でコストはかかるかもしれない。が、すべてを禁止するような強攻策よりは、はるかに対外的なイメージも良い。極論から極論へ移行したが故の悲劇と言うことができる。今回は急場だったため、それだけの体制を整えられなかったとしても、今後早急に改善して欲しい点のひとつだ。

ヤジの禁止については、なるほど、確かに心ない罵声の数々は聞いていて気持ちがよいものではない。他方、だらしのないプレーに対するブーイング・叱咤と、悪戯に人格や人権を侵害するヤジ・罵倒の明確な区別がまだついていない現状では、些か急ぎすぎた印象が否めない通達だ。これでは感情を上下させる、熱気を煽る応援が極めて困難になる。

せめて後日ガイドラインを作成することを約束し、複数の信頼できるサポーターズグループらと連携してより建設的な解決を目指していく――であるとか、そういった指針を表明すべきだった。メディアが取り上げるのは一発目の会見のみで、後は浦和がどれだけ努力をしても、発展的改善策を打ち出していってくれたとしても、そんなものを改めて喧伝してはくれない。初期対応としては致命的な問題点だ。協会と周囲から受けた圧力によって恐慌に駆られ、冷静さを欠いた決定を下してしまった感が否めない。

こうなると、事は浦和だけの問題ではない。明日は我が身と、いつ応援が制限されるか、言論を統制されるかわからないと、不安を抱えるサポーターは各地にいることだろう。表現の自由を謳歌するためのルール整備を怠ってしまったが故に、一層の不自由をサポーターに強いているわけである。この状態で我から手を挙げ、スタジアムに足を運んでくれる新規層は何人存在することか?

余談だが、巷で話題になったセルジオ越後氏の手記には心底呆れる一方、一部だけ同意できる部分があった。バスクと日本の事情をごちゃ混ぜにするなど、その感性には愕然とさせられたが、『言葉狩りに対する懸念』という部分については、なるほど理解ができる。

確かに、このままでは埒が明かなくなる。何が差別で何が戦闘なのか、その明確な基準が存在しないためだ。早急に具体例を織り混ぜた「これはよし、これは駄目」の一覧表のひとつも作成しなければ、スタジアムは一気に窮屈なものになっていくだろう。

閑話休題。私見を簡潔にまとめるなら、

① 思想・信条の自由はともかく、あらゆる形の差別が、表立って発言しては大問題になる。フットボールの世界においては、殊更差別に対して敏感な対応、先進的な感性が要求されるということ。

② 上記を理解せずに活動する者(例えば今回、問題を起こした連中)は論外として、何が差別か、何が差別でないかの区別が、現状極めて不明瞭であること。

③ ②から、一刻も早くよりわかりやすい形で、この問題に関する情報の周知、学習の機会を協会は提供する責務があること。また、クラブにその対応を任せるというのであれば、必要な資金やフォーマットを提供すべきであること。

――以上の3点に集約できる。③については一応、FIFA基準に則った国内作成の規定があるにはあり、昨年の時点でクラブ関係者に詳細が通達されてはいたのだが、筆者に言わせれば
「だからどうした?」
である。それが肝心の観戦者(差別に纏わる問題行動起こす者をファンやサポーターとは言えないため、あえてこうした表現を使用している)に全く伝わっていないからこそ、起きてしまった問題なのだ。機能しない法典に存在意義はない。

これが日本人の苦手な分野であることは、充分に理解できる。それでもこと差別問題に関しては、誰の目にもわかるような白と黒の線引きを、権威を持ってはっきりさせなければならないのだ。

この一件、これですべてが片付いた問題ではない。フットボールに限らず、日本のスポーツ文化醸成の意味で極めて重要な取り組みが、今まさに動き出したばかり……というのが、現時点の率直な感想だ。

船頭多くして船山に登る。

確かに初期対応に致命的な過ちがあったとは言え、浦和ならびに各クラブのフロントばかりに負担をかけ、ストレスを強いてしまっては、悪戯にファンを萎縮させ、市場を縮小させる結果に繋がりかねない。協会ないし村井チェアマンは、強力なリーダーシップを発揮して、速やかに事態の改善を図らなければならない。

彼らは果たして、船頭役として事態を正しい方向へ導いていけるのか?

あらゆるフットボールファンにとって、この問題は他人事ではない。一人ひとりが、今後の展開を慎重に見極める必要がある。

<了>


筆者名:白面

プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者です。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。
ブログ:http://moderazione.blog75.fc2.com/
ツイッタ ー: @inter316

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