このコラムに手をつけようかと思った時に急遽解任報道。そして書き始めている時には既に退団が決定した。とりあえずではあるがモイーズの退団は置いておき、この試合について書き進めていくことにしよう。

【狙い通りのエヴァートン】

結果、内容ともにエヴァートンの完勝。質と量の差は思った以上のものがあり、正直スコアがもっと開いてもおかしくはなかった。

後ろにどっしりと構え、ボールを回させながらも要所は人数をかけて守り決定機を与えない。ユナイテッドがパス回しに固執してシュートを打ちにいかなかったこともエヴァートンにとっては良かった。

きっちり守って前線のルカクとネイスミスに送り込み、手数を掛けずにフィニッシュまで持ち込むパターンは、攻め切れないユナイテッドにとってボディブローのように効いていた。中途半端にパスを回していたお陰で中盤のラインも低くなかったユナイテッドは、意図しないミスでボールロストからシンプルなカウンターに手を焼いていた。

前半で2−0とリードしそのまま試合を進めることに成功したエヴァートンは、ユナイテッドが前に出ようとした時間帯で、前線からのプレッシングを強めて思うようにボールを運ばせなかった。それまではあまり前から追いかけず、カウンターに蓄えていた前線が急に牙を向いてユナイテッドを混乱させていた。ゴールこそなかったもののボールを奪う位置が若干高くなったので、より決定的なカウンターが多かったのは後半だった。

【怖さのないユナイテッド】

正直ルーニーにはがっかりした。怪我が治りきってるとかきってないとかは無視をして、トッププレーヤーとしてふさわしい質と量のプレーを見せたとはとても言い難い。もちろん彼だけのパフォーマンスが酷かったわけではないが、前半あれだけのポゼッションを誇りながら、シュートが一本しか打てなかったという数字はルーニーのプレーによるところが大きい。

前半序盤からボールを持ってプレーしており、復帰したナニを絡めてよさそうな雰囲気は漂っていた。しかし、パスは回しているものの徐々に回させられている感が出始め、エリア内に侵入しようものならすかさず人数を掛けられてボールを献上していた。

単に局面を探りながら明確な意図のないパス回しでは、どっしり構えるエヴァートンの最終ラインを拡げることは出来ず、誰もスペースへ走りこまない状況では、非常に守りやすかっただろう。ナニも時折打ちに行くものの、手数をかけすぎてなかなか打ち切るまではいけず、マタも香川もパス先行でアタッキングサードでの恐怖感というものは皆無に近かった。

後半チチャリートが入ったことでゴールマウスを意識させる動きが増えたものの、終盤の決定機をルーニーが外した場面などは、この試合の乗り切れなさを表すようなものであった。

【戦術不足か選手の能力不足か】

どちらかが不足しているというわけではなく、どちらも足りていない。正直なところバイエルン戦のような戦い方を国内で見せることが出来ていれば、とは思わずにはいられない。出来るのにしなかったのか、出来なかったのか。今となっては闇の中であるが、いずれにせよどちらか一方の責任というわけにはいかない。だからこそこの問題は難しいもので、責任のなすりつけ合いが発生してしまう。犯人は1人ではないと見るべきだ。戦犯探しにキリはないのだ。

社会に出ても同じことではあるが、成功と失敗の原因を探ろうとすれば物事がいくつも複雑に絡み合っており、これだと断言することは難しい。プログラミングの世界ならいざ知らず、人間が人間と作り出すものには、運や感情、タイミングなど数字や記号では表しきれないものが詰まっている。サー・アレックスにも戦術は足りていなかった。しかし彼はマン・マネージメントをもってそれを補うどころか超越して結果と成功を手にした。この試合から見て取れたのは集団としてのパフォーマンスは負けに値するものであり、そしてエヴァートンの奏でたプレーの方が優れていた、という事実である。ベクトルが揃わない集団を見るのはあまり気持ちのいいものではない。

故にデイヴィッド・モイーズはユナイテッドを追われたわけであるが、彼がこの仕事に失敗したことを責め立てても仕方がない。不可解な采配が数多く見られたことに不満がないわけではないが、それほどまでに難しい仕事だったのだろうと解釈する他ないのだ。もちろん全ての真実を知りたいものだが、マンチェスター・ユナイテッドのマネージャーが難しい仕事というよりは、26年間指揮を取り、世界一のマネージャーとして成功と賞賛を勝ち取ってきたサー・アレックス・ファーガソンの後任、という仕事が非常に難しかったのだ。どこかの国で政権交代が起こるくらいに匹敵する難易度だといっても差支えはないだろう。これは彼のみの失敗ではなくクラブとしての失敗であることは言わずもがな。モイーズだけをスケープゴートにしては何も始まらないのだ。

願うことは雛鳥たちによる建て直しが上手く行くことである。結果も大事であるが、マンチェスター・ユナイテッドが、マンチェスター・ユナイテッドであることを証明する様なプレーを残り4試合で見せられるか。ギグスらに託された仕事もとても困難ではあるが、彼ならば、と思わずにはいられない。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッター:@db7crsh01

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