胴上げされる中田監督 バレーSVリーグ女子決勝  SAGA久光が初優勝し、胴上げされる中田監督=横浜BUNTAI(共同)
開幕3連敗、最下位スタート。そこから頂点に立つ未来を、どれだけの人が想像できただろうか。2025-26シーズンのSVリーグ女子は、SAGA久光スプリングスの劇的な逆転優勝で幕を閉じた。
復帰1年目の中田久美ヘッドコーチが掲げたのは「優勝以外は認められない」という覚悟。そして、その裏側にあったのは、これまでの“闘将”像とは異なる、選手との対話を重視したチームづくりだった。
崖っぷちから這い上がり、勝ち切る力を手にしたSAGA久光。その軌跡とともに、群雄割拠のSVリーグが見せた現在地を追う。

崖っぷちからの逆転劇。セミファイナルを乗り越えてつかんだ頂点

4月25日、26日、「2025-26 大同生命SV.LEAGUE WOMEN CHAMPIONSHIP Finals」が神奈川県横浜市の横浜BUNTAIで開催され、レギュラーシーズン2位のSAGA久光スプリングスが同4位の大阪マーヴェラスに連勝してSVリーグ初優勝。前身のVリーグ時代を含めれば、2021-22シーズン以来4季ぶり9度目の頂点に輝いた。

画像: ポーズとるSAGA久光 バレーSVリーグ女子決勝  初優勝を果たしてポーズをとるSAGA久光の選手ら=横浜BUNTAI(共同)

ポーズとるSAGA久光 バレーSVリーグ女子決勝  初優勝を果たしてポーズをとるSAGA久光の選手ら=横浜BUNTAI(共同)

チームを率いたのは、復帰1年目の中田久美ヘッドコーチ(以下、HC)だ。

「一番はホッとしています。勝った嬉しさは3割くらい。選手たちの汗と涙の結果だと思います」

かつて鋭い眼差しで選手を鼓舞してきた「闘将」は、メガネの奥の目尻を下げてそう言った。

崖っぷちからの戴冠だった。2戦先勝方式のセミファイナルは、PFUブルーキャッツ石川かほくの猛攻に遭い、GAME1を1-3で落とした。GAME2をフルセットで制して1勝1敗のタイに戻したものの、GAME3も相手の勢いに押され2セットダウン。再び窮地に追い込まれた。

流れを変えたのは、途中出場のジュリー・レングヴァイラーだ。高い打点から次々とスパイクをたたき込み、第3、4セットを連取。勝負の行方を最終第5セットに持ち込むと、平山詩嫣、北窓絢音が攻守にわたって躍動した。最後は荒木彩花のブロックで、熱戦に終止符を打った。

ファイナルもタフな試合だった。相手はSVリーグ初代女王の大阪マーヴェラス。鉄壁の守備を誇り、堅実なバレーボールでチャンピオンシップを勝ち上がってきた。しかし、挑戦者のSAGA久光は怯まない。

GAME1は、中田HCが「今シーズンの鍵」と評した中島咲愛が、チーム最多の21得点をたたき出した。相手のブロックを利用して得点を稼ぎ、軟打を交えながら相手コートの空いたスペースにボールを落とした。守備ではボールの繋ぎ役として活躍。フルセットの勝利に貢献し、中田HCも「いい働きをしてくれた」と目を細めた。

翌日のGAME2もSAGA久光が走った。ステファニー・サムディにトスを集めると、守備ではリベロの西村弥菜美が本領を発揮。「なぜそこにいるんだ」と思わせる抜群のポジショニングで、相手の攻撃にことごとく立ちはだかる。サーブレシーブ成功率は脅威の85.7%をマーク。2セットを先行すると、第3セットも20-10と大きくリードを広げ、最後はネット際に返ってきたボールをサムディがたたき落とした。セットカウント3-0。圧倒的な強さを見せたSAGA久光のコートに歓喜の輪が広がった。

画像: SAGA久光―大阪M 第1セット、スパイクを放つSAGA久光のサムディ=横浜BUNTAI =KYODO

SAGA久光―大阪M 第1セット、スパイクを放つSAGA久光のサムディ=横浜BUNTAI =KYODO

中田HCの変化と対話。再建を支えたチームマネジメント

2025年6月、SAGA久光は2021年の東京五輪で日本代表の指揮を執った中田HCを招聘。9年ぶりの復帰だった。

「スプリングスからも優勝というミッションを与えられていた。優勝以外は認められないと思っていて、そういう覚悟を持って現場に戻ってきました」

当時をこう振り返る中田HC。しかし、蓋を開けてみれば開幕3連敗、14チーム中、最下位からのスタートだった。選手15人(開幕当時)と、少数精鋭での戦いを強いられた。主力選手の離脱もあった。

中田HCが重視したのが選手との対話だ。一人ひとりの考え方に共感し、認めることに重きを置いた。

「たぶん、丸くなったんだと思います。もう還暦ですし。そういう人たちなんだなと認めてあげることが大事だと思う。でも、考えてなさそうで、実はいろんなことを真剣に考えて取り組もうとしている。なので、まずは共感すること、理解してあげることが私のなかで気をつけていたところです」

4戦目のクインシーズ刈谷戦で初勝利をつかむと、そこから破竹の13連勝。見事なバウンスバックを見せた。セッターの栄絵里香を軸に荒木、北窓ら個性豊かなアタッカー陣が躍動。白星を重ねるごとに、チームの結束力を強めていった。

今シーズンのSAGA久光の強さを裏づける根拠の一つに、フルセットでの勝率の高さがある。「外国籍選手に頼りすぎないチームづくりをしたことがよかった」と中田HCは振り返る。

「もちろんステフ(ステファニー・サムディ)もハッタヤ(ハッタヤ・バムルンスック)もジュリー(ジュリー・レングヴァイラー)も大きな戦力でした。でも、これだけ長い試合の中で外国籍選手だけに頼った試合を続けると、若手や周りの選手のモチベーションのバランスが非常に難しい。ある程度、役割を決めて、しっかり責任と緊張感を持たせて、どういう状況になっても自分の役割をしっかり果たすというチーム作りをしてきたことが、結果的にフルセットになっても崩れない一つの要因になったのではないかと思います」

修正能力も高く、開幕3連敗のあとは一度も連敗なし。終わってみれば、レギュラーシーズン優勝のNECレッドロケッツ川崎と同じ勝率の36勝8敗。ポイント差でわずかに届かなかったものの、2位でチャンピオンシップ進出を決めた。

画像: 初優勝を果たして手を振るSAGA久光の(左から)栄、籾井ら。右端は中田監督=横浜BUNTAI(共同)

初優勝を果たして手を振るSAGA久光の(左から)栄、籾井ら。右端は中田監督=横浜BUNTAI(共同)

地元の声援も力になった。優勝した26日には、鳥栖市や佐賀市でパブリックビューイングがあり、多くのファンが声援を送ったという。チャンピオンシップMVPに輝いた西村は、試合後の記者会見で感謝の言葉をこう口にした。

「SAGAアリーナという素晴らしいアリーナでホームゲームをさせていただくなか、たくさんの方に足を運んでいただいて、いつも背中を押していただいています。特に知事や市長が本当にスポーツ好きで、いろいろなスポーツを先頭に立って応援してくださっている。それが佐賀県民や九州全体を巻き込んで、皆さんをファンにしていけているんじゃないかと思います。今回、優勝という形で恩返しできたことは、本当によかった」

SAGA久光の優勝は、選手一人ひとりの成長と苦しい状況でも勝ち切る勝負強さの醸成、そして地域一丸のサポートがもたらした成果に他ならなかった。

群雄割拠のSVリーグ。進化と変革が進む次なるフェーズへ

2年目を迎えたSVリーグもエキサイティングなシーズンとなった。

オープニングを沸かせたのがKUROBEアクアフェアリーズ。開幕から無傷の6連勝を飾り、179cmの長身セッター安田美南を軸に多彩な攻撃で、見る者を魅了した。

群馬グリーンウイングスは新たに加入したポーランド人のオリビア・ロジャンスキが大車輪の活躍を見せた。陽気なキャラクターでチームをけん引。昨シーズンは5勝39敗で最下位に沈んだチームを、25勝19敗の7位でチャンピオンシップに導いた。

最大のサプライズはPFUだろう。レギュラーシーズンを3位で突破すると、セミファイナルではSAGA久光からGAME1を奪取。1勝1敗で迎えたGAME3も、2セットを先取するなどファイナル進出まであと1セットに迫った。日本代表のセッター松井珠己の加入で攻撃が活性化し、大熊紀妙、上村杏菜ら若手がコートを縦横無尽に駆け回った。

東レアローズ滋賀、アランマーレ山形はシーズン途中でヘッドコーチが交代。プロの洗礼を浴びた。埼玉上尾メディックス、デンソーエアリービーズのチャンピオンシップ進出争いも、レギュラーシーズンの終盤を盛り上げる一因になった。

最終節を残してレギュラーシーズンの優勝を決めたのがNEC川崎だ。佐藤淑乃、シルビア・チネロ・ヌワカロールを攻撃の柱に開幕10連勝。しかし、チームは満身創痍だった。
負傷離脱が相次いだことで、セッターの中川つかさがほぼ一人でトスを上げ続けた。それでも、埼玉上尾と対戦したクォーターファイナルは、持ち味の攻撃力を最大限に発揮。セミファイナルで大阪MVに敗れたが、クルー(NEC川崎のファンの愛称)と一体になり、ホームの東急ドレッセとどろきアリーナを極上の舞台へと昇華させた。試合後の中川は涙を堪えながら、「クルーの皆さんに応援してもらえるチームだと改めて感じた」と気丈に振る舞った。

連覇を狙った大阪MVの強さも健在だった。酒井大祐HCが「チームの文化」と言う守備力に隙はなかった。その中心を担っていたのがリベロの西崎愛菜だ。強気のプレーが持ち味で、「(酒井HCからは)『どんな状況でも、マナが堂々とコートに立ってやれ』と常に言われています。チームの雰囲気が沈んでいるときも、コミュニケーションを取って盛り上げていかなければいけない。今シーズンはそういうところも成長したんじゃないかと思います」と話す。チャンピオンシップに入ってギアを上げてきた攻撃面では、キャプテンの田中瑞稀が圧倒的な存在感を発揮した。女王の座奪還に向けて、来シーズンはさらなるパワーアップを遂げてくるに違いない。

2026-27シーズンのSVリーグ女子は、1リーグ制から東西カンファレンス制に変更される。同時にレギュラーシーズンの試合数も44試合から38試合に変更。コンディションの負担が軽減され、より緊張感のある試合が見られるようになるだろう。集客の強化を目的にした各クラブの施策も興趣が尽きない。日本のバレーボールは、次なるフェーズへと一気に駆け上がっていく。

取材・文=岩本勝暁

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