オリンピック種目化を機に競技力を高めてきた、日本のBMXフリースタイル・パーク。中村輪夢を筆頭に、世界トップレベルのライダーを次々と輩出している。
その躍進を力強くリードしてきたのが、一般社団法人全日本フリースタイルBMX連盟で理事長を務める出口智嗣氏だ。30年構想を描き、今秋には新大会「マイナビBMXリーグ」も立ち上げる。シーンの未来を創るキーマンの生い立ちと、その想いを聞いた。
(※取材日2026年8月31日)

骨折24カ所を経験。それでもフリースタイルが好きな理由

―― BMXには、いつから乗り始めているのですか?

出口: 小学生からですね。もともとはオートバイのモトクロスがやりたかったんですが、家庭の事情で難しくて。自転車屋さんでBMXの存在を教えてもらったのがきっかけでした。岡山にあったBMXレーシングのコースで初めて乗ったのですが、1本目でコケて、もう痛くて嫌だなと思ったのが始まりです(笑)。

その後、10歳ぐらいのときに友だちがルック社のBMXを手放すというから、譲ってもらって、カゴやどろ除けを全部外して自分の1台目にしたんです。当時は路面がちょっとデコボコしているところを見つけて遊び感覚で乗っていましたが、中学校に入ると本格的にBMXをやっている友だちもできて、母の応援の甲斐もあって、いろんな大会に連れて行ってもらえるようになりました。

――岡山県はBMXが盛んなのでしょうか? 競技環境はどうでしたか。

出口: 県内に2か所レースコースがあって、先輩には全日本チャンピオンもいたんです。一緒にトレーニングを始めるとレベルアップできて、中学生のときに初めて出た全日本選手権が7位、2年目で準優勝まで行けました。コーチがいてくれたのも大きかったですね。

全日本選手権のレーシングは年齢別のカテゴリーに分かれているのですが、高校1年生のときに16歳以上の部で優勝もできました。それを機に、メーカー契約をしたり、日本代表にも選ばれたりして、勝つ楽しさを知っていくようにもなるんです。

――現職は、全日本フリースタイルBMX連盟(JFBF)の理事長です。スピードを競うレーシングから、技術や技の完成度で勝負するフリースタイルへ転向したきっかけは?

出口:16歳ぐらいからほぼすべての大会で勝てるようになったのですが、とは言えいろいろな選手も出てきますし、トレーニングもきつくなってきて。高校3年生ぐらいから、自転車を漕ぐのが嫌になってきたときに、フリースタイルの方が面白いと思うようになって、20歳ぐらいで転向しました。日本では珍しかったんですよ。

BMX発祥の地であるアメリカでは、レーシングをやってからフリースタイルに転向するのが当たり前だったんですけど、当時は日本人でおそらく僕だけでした。レーシングで身につける基礎的な技術が、フリースタイルにも活きるんです。

――フリースタイル・パークは、ジャンプ台を使ったアクロバットな技の難易度や完成度の高さを競います。レーシングと真逆のスタイルに見えます。どんな練習をしていたのですか。

出口:フリースタイルは痛いんですよ。こけちゃうので。当時は今みたいなクッションプールやレジーマットといった衝撃を軽減する設備もなくて、ぶっつけ本番でトリック(技)をして失敗すると、ウッドに叩きつけられる感じでした。骨折は数えたら24か所ぐらい。一度に5か所も折れて半年間乗れない、なんてこともざらにありましたね(笑)。

画像: 2026年5月14日、フランス・モンペリエで行われたUCI BMXフリースタイル・パーク・ワールドカップ女子予選に出場する内藤寧々。(Photo by Nano Calvo/VW Pics/Universal Images Group via Getty Images)

2026年5月14日、フランス・モンペリエで行われたUCI BMXフリースタイル・パーク・ワールドカップ女子予選に出場する内藤寧々。(Photo by Nano Calvo/VW Pics/Universal Images Group via Getty Images)

――それだけ骨折したら、怖さも出て来ませんでしたか?

出口:もう、それだけ骨折すると慣れてしまって。それよりも、みんなと一緒に乗って怖さよりも技が決まったときの嬉しさ、仲間たちとハグしてその場の空気感を楽しむのが好きでした。あと、誰にも見られていないところでこっそり練習して、大会で初披露する。昼はBMXショップで働いて、夜は練習、いや遊びに行くイメージに近かったですね。

――BMXのようなカルチャースポーツには、勝ち負けだけでなく、ライダー同士がリスペクトし合ったり、良いトリックが決まればみんなで盛り上がったりする。そんな文化が印象的です。

出口:言ってしまえば、頭からバク宙の練習をして、落ち方を間違えたら死んじゃうかもしれない。そのチャレンジの瞬間にみんなから受け取るアドレナリンと、技を決めた気持ち良さを共有できる。その相互作用が、リスペクトにつながっていくんだと思います。

30年構想でオリンピアン輩出。次はBMXでお金を稼げるシーンへ

―― BMXの競技面に目を向けると、2008年の北京オリンピックでレースが、2021年の東京オリンピックでフリースタイル・パークが、正式種目に採用されました。競技シーンに、何か変化をもたらしましたか。

出口:爆発的に競技人口が増えた実感は無く、JFBFとしても競技者が増えるとは思っていませんでした。どう考えても、危ない競技じゃないですか。見てやりたいと思う一般の方は、そう多くないだろうなと感じていました。

とはいえ、競技シーンの盛り上がりは右肩上がりです。ただ、スケートボードや3x3バスケットボールのように大きなものでは無かったと感じています。その代わりに五輪効果は、競技力の向上に大きく貢献しましたね。10年前は世界で全く勝てなかった日本のBMXシーンですが、今では男女のフリースタイル・パーク、男女のフラットランドの4カテゴリー全てで国際ランキングの1位が日本人のライダーなんですよ。

――オリンピックをどう競技力の発展に活用したのでしょうか。

出口:東京オリンピックの種目決定を機に、活動資金をしっかりと集めることができて、それを当時のトップ選手ではなく、若い世代の育成に充てたんです。東京五輪、パリ五輪で5位入賞を果たした中村輪夢も、その一人です。だから今、勝てる選手が育っているのです。

画像: 2021年7月31日、東京五輪BMXフリースタイル男子シーディングに出場する中村輪夢。 Photo by Laurence Griffiths/Getty Images)

2021年7月31日、東京五輪BMXフリースタイル男子シーディングに出場する中村輪夢。 Photo by Laurence Griffiths/Getty Images)

僕は、30年構想でBMXのあり方を考えているのですが、最初の10年は競技力を上げてオリンピアンを輩出する。2028年のロサンゼルス五輪で金メダル獲得が最大の目標で動いてきました。おかげさまでJFBFが主催する全日本選手権やジャパンカップといった公式戦も定着して、ここに出てくるライダーがオリンピックを目指すという1つのカルチャーができあがりました。

ただ、BMXフリースタイル・パークがこの先もオリンピック種目であり続ける保証は無いですよね。だからこそ次の10年は、オリンピックとは違う本当のカルチャーを持ったコンペティションが必要だと考えていました。中村輪夢を筆頭に実力ある選手がいるいま、BMXを「見る競技」にすることです。

現状、オリンピアンになったり、メダリストになったりしても、それだけで一生食べていけるわけでもない。じゃあ、ライダーたちのセカンドキャリアはどうするんだと考えたときに、ショーアップされた舞台でお金を稼いでいける次のキャリアを整備したいと思ったのが、今年から動き出す「マイナビBMXリーグ」(以下BMXリーグ)なんです。

――競技シーンの未来を創るグランドデザインの中で、BMXリーグの構想があったわけですね。これまでの日本に無い価値観の大会だと思いますが、リーグの設計はどうしたのでしょうか。海外に先行事例はあったのですか?

出口:BMXリーグは、完全にゼロイチのリーグです。まず、リーグに出場するライダーに対して、プロライセンスを世界で初めて発行しました。海外にもライセンス制度はありません。極端に言えばプロライダーと言っても、数百万円もらえるライダーからハンドルについているグリップを1個もらえるだけのライダーがいる。格差があったんです。それをプロライダーという職業を制度として作って、誰からも認められるようにしました。

ライダーが命をかけているのに、生計を立てられないのが僕にはずっと理解できなかった。それを変えるには、今までのフォーマットを一度壊す必要がありました。世界トップクラスのライダーがいる日本だからこそ発信する意義があるし、注目してもらえるタイミングだと思ったんです。

競技シーンの柱を今まで立ててきましたが、BMXリーグをコンペティションの柱として立て、さらに携わる人たちの生活も成り立っていく柱を作る。カルチャーとしてBMXシーンのゼロイチをやっていきたいと考えています。

(後半に続く)

文=大橋裕之

マイナビ BMX League 〜ライダーが主役になれる新時代のBMXリーグ!

■日程:2026年9月11日(金)~13日(日) ※11日は公式練習
■会場:SAPPORO CULTURE FARM/凹場 anaBa
   北海道札幌市中央区北2条⻄4丁⽬1番(北海道ビルヂング跡地)
■配信: 12日(土) および13日(日) の試合をLIVE配信!
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