モータースポーツ大国でありながら、長らくF1世界王者の座から遠ざかっているブラジル。その悲願を背負う存在として、いま最も大きな注目を集めているのがラファエル・カマラだ。各ジュニアカテゴリーで圧倒的な実績を残してきた21歳は、TGRハースF1からの来季デビューという大きな切符を掴み取った。「勝ち続けてきた男」がたどった足跡と、最高峰の舞台へと挑むその覚悟に迫る。

セナ以来の王者へ!ブラジルの新星ラファ・カマラ

日本のF1ファンにとっては、ブラジル人ドライバーと言えば、アイルトン・セナが真っ先に思い浮かぶだろう。セナのカリスマ的な走り、マクラーレン・ホンダを駆っての3度の王者獲得、そして1994年の悲劇的な死……どこをとってもブラジルの英雄にふさわしい。

だが、太陽の国ブラジルにとっても、F1王者はセナ以来登場していない。その悲願にあと一歩まで迫ったのが、2008年のフェリペ・マッサ。フェラーリを駆り、最終戦ブラジルGPで優勝。逆転で王座を手にしたかに見えた喜びもつかの間、後方でルイス・ハミルトンが5位に滑り込み、わずか1ポイント差で敗れた。

レジェンド、エマーソン・フィティパルディがブラジル人として初めて1972年にF1チャンピオンとなり、74年にもタイトルを奪還。その後、ネルソン・ピケが1981年、83年に王座を獲得し、87年にはウイリアムズ・ホンダで3度目の王者に輝き、セナが続いた。ブラジル人ドライバーはF1のメインストリームにいると思えたのも、今は昔だ。

2026年、アウディのガブリエル・ボルトレトが孤軍奮闘する中、TGRハースF1から来季のドライバーとして15日に発表されたのがラファエル・カマラだ。愛称は「ラファ」。エステバン・オコンの後任として、オリー・ベアマンのチームメイトになる。

画像: 2026年9月、FIA F2アゼルバイジャン大会に臨むラファエル・カマラ。2027年からTGRハースF1でのデビューが決まった21歳の新星。(Photo by James Sutton - Formula 1/Formula 1 via Getty Images)

2026年9月、FIA F2アゼルバイジャン大会に臨むラファエル・カマラ。2027年からTGRハースF1でのデビューが決まった21歳の新星。(Photo by James Sutton - Formula 1/Formula 1 via Getty Images)

2005年5月5日、ブラジル北東部ペルナンブーコ州の都市レシフェ生まれの21歳。TGRハースF1チームが複数年契約での起用を発表し、2027年の開幕戦からデビューすることが決まった。

「ルーキー」という言葉からは、経験不足で初々しい若者を想像するかもしれない。だがラファの経歴は、むしろ「勝ち続けてきた男」という言葉のほうが似合う。まずは、F1昇格が決まった本人の第一声から紹介したい。

レースは「人生をかけてきたこと」

「間違いなく最高の気分です。人生すべてをかけて取り組んできたことだと思います。6歳でレースを始めたときは、自分がどこにたどり着くのか、まったく分かっていませんでした。本当に嬉しいですし、ここまで歩んできた道のりも誇りに思います。チームと一緒にこの旅を始められることが、心から楽しみです」

6歳でレースを始め、行き先も分からないまま走り続けた少年が、F1のシートにたどり着いた。派手な言葉は並ばない。だが、その素朴さが長い道のりを感じさせる。英語のインタビューで言葉を探しながら語る姿に、デビュー当時、英語を苦手としていたセナ、若き日の英雄の面影をつい重ねてしまうのは、オールドファンの困った癖かもしれない。

生い立ちにも、モータースポーツは色濃く関わっている。父アマロさんは弁護士、母パウラさんは実業家。そして母方の祖母ニエージ・ロシッターさんは、1960年代のレシフェでモータースポーツの草分けとして活躍した人物だという。レース好きの血筋に生まれたことは間違いなさそうだ。

ジュニアカテゴリーの階段を確実に上り詰める

カマラのキャリアの特徴は、ジュニアカテゴリーの階段を一段ずつ上り、そのほとんどで結果を残してきたことだ。

カートは2011年に地元ペルナンブーコの州選手権で始めた。2019年にはOKジュニアクラスで世界選手権2位に入り、シニア転向後の2021年にはWSKチャンピオンズカップやWSKスーパーマスターシリーズを制し、欧州選手権でもランキング2位となった。

2022年にフェラーリ・ドライバー・アカデミー(FDA)の一員としてフォーミュラ4に参戦し、プレマ・レーシングからUAE選手権で6勝を挙げて総合2位、ルーキー王者となった。ADACとイタリアのF4ではどちらも総合3位だった。一方で、新型コロナ感染による欠場や、タイトル争いを左右した接触も経験している。順風満帆とは言い切れない1年だった。

2023年にはフォーミュラ・リージョナルに進み、中東選手権で総合3位、欧州選手権(FRECA)では初優勝を含む2勝を挙げて総合5位となった。そして2024年、FRECAで同選手権の1シーズン最多となる7勝を挙げて王者になった。予選は一度も4番手より下にならず、2位に75ポイント差をつけている。

2025年にはFIA F3にステップアップし、ルーキーイヤーで王者になった。ハンガロリンクのフィーチャーレースで勝って、最終戦を待たずにタイトルを決めている。これは2019年のシリーズ創設以来、初めてのことだった。バルセロナではシリーズ史上初の4戦連続ポールポジションを獲得し、レースでは全周回をリードして勝利している。

そして2026年、F2にはインヴィクタ・レーシングから参戦。ハースの発表によれば、残り2ラウンドの時点で207ポイントを獲得して首位に立っている。スペイン、ベルギー、アゼルバイジャンでフィーチャーレースを制し、表彰台は計6回、ポールポジションは5回だ。F2のルーキーでこの成績は、F3王者の肩書きに恥じない。

画像: 2026年9月26日、FIA F2アゼルバイジャン大会で優勝し、表彰台の中央でシャンパンファイトを楽しむラファエル・カマラ(インヴィクタ・レーシング)。(Photo by Mark Sutton - Formula 1/Formula Motorsport Limited via Getty Images)

2026年9月26日、FIA F2アゼルバイジャン大会で優勝し、表彰台の中央でシャンパンファイトを楽しむラファエル・カマラ(インヴィクタ・レーシング)。(Photo by Mark Sutton - Formula 1/Formula Motorsport Limited via Getty Images)

ハースが見た「速さ以上のもの」

ハースがラファを選んだ決め手は、2026年8月にポルティマンで行ったTPC(旧型車テスト)だった。カマラはハースをドライブし、短い時間でマシンに適応した。決め手を問われた小松礼雄代表は、「彼が最速だった」と端的に答えている。ハースの代表は、公式発表でその印象をこう語っている。

画像: 小松礼雄代表とラファエル・カマラ (C)TGRハースF1

小松礼雄代表とラファエル・カマラ (C)TGRハースF1

「彼の経歴はジュニアカテゴリーで非常に印象的でしたし、F2のルーキーイヤーでも、モナコやモントリオールの予選のような難しい場面で見せたスピードに、ラファの可能性が表れています。ポルトガルでのTPCでは、マシンを学ぶ時間がそれほど多くない中で、非常にうまく対応できることを示しました。単なる速さだけではないものを見せてくれたのです。ラファは自分から最高の力を引き出せる環境を作ることができていて、それが非常に印象的でした。彼が走ったラップは確かに特別でした」

小松代表はさらに、育成への姿勢も明確にしている。

「ハースとして、この才能を育て、彼が花開ける場所を提供することに本気で取り組みます。彼が心地よく、支えられていると感じられて、持てる力を存分に発揮できる環境をつくりたいのです」

オーナーのジーン・ハース氏も期待を隠さない。

「F3、そして今年のF2で彼が成し遂げたことを見てきたので、F1で何ができるのか楽しみです。このレベルは違う挑戦ですが、オリー・ベアマンが似た道を歩んできた経験から、こうした若いドライバーはよく準備ができていて、チームにすぐ影響を与えられると分かっています」

画像: オリー・ベアマン(ハース)。2027年から同チームに加入するラファエル・カマラと同じフェラーリ育成プログラム出身。 (C)TGRハースF1

オリー・ベアマン(ハース)。2027年から同チームに加入するラファエル・カマラと同じフェラーリ育成プログラム出身。 (C)TGRハースF1

ベアマンもカマラと同じくFDA出身で、現在ハースで走っている。同じ育成プログラムの先輩が結果を出していることが、今回の起用にも追い風になったようだ。

ブラジルの英雄の系譜に連なる

ブラジルは、これまで数多くのF1ドライバーを輩出してきた国だ。その歴史に連なることについて、カマラはこう答えている。

「いい気分です。これまでグリッドには、たくさんの素晴らしいブラジル人ドライバーがいました。新しい旅を始めるのが本当に楽しみです。もちろん、上を目指して、チームとともに大きな成功を収められるように努力します。素晴らしいブラジル人がたくさんいる中で、僕もその一人として、この素晴らしいグリッドの一員になります。ここがモータースポーツの最高峰だと分かっていますから、早く始めて、このドライバーたちと一緒に走りたいです」

先人への敬意はあるが、気負いは感じられない。「その一人として」という淡々とした言い方に、落ち着いた性格がうかがえる。

来季の目標については、具体的な数字を口にしなかった。

「まだ少し早いと思います。でも、始まれば誰だって競争力を持ちたいし、戦いの中にいたいものです。だから、できるだけ多くを学んで、いい仕事ができるように、しっかり努力していきます」

「勝ちたい」と大見得を切らず、戦う意識を口にしつつも、「できるだけ多く学ぶ」ことを強調する。F3王者、F2首位という実績を持ちながら、F1を別の挑戦として受け止めているのが分かる。

また、ブラジルのファンへのメッセージを求められたカマラは、少し言葉を探しながら、こう語っている。

「シングルシーターを始めて、少し注目されるようになってから、ファンの情熱や応援が本当にすごいと感じてきました。応援してくれる人の数を目にすると、走り続ける力になります。いつでも励ましのメッセージをくれて、支えてくれる。ブラジルからの応援を見るのは、本当に嬉しいです。僕が彼らにできるのは、コース上で最高の仕事をして、誇りに思ってもらうことだと思います。来年は、いいショーを見せられたらいいですね」

言葉は飾らず、ところどころ詰まる。それでも「誇りに思ってもらう」という一言に、ラファのレースへの向き合い方が出ている。

日本のファンにとっての「ラファ」

日本のファンにとっても、このニュースは他人事ではない。チーム名に「TGR」を冠するハースは、トヨタとの結びつきが強まったチームだ。小松礼雄代表は、もちろん日本人である。

今回のシート争いには、トヨタが支援するハースのリザーブドライバー、平川亮も加わっていた。ル・マン24時間の勝者でもある平川は、8月のポルティマンで、マクラーレンのリザーブであるレオナルド・フォルナローリ、そしてカマラと同じVF-25を走らせて比べられた。3人は3日間にわたってこのマシンに乗っている。リザーブのジャック・ドゥーハンも、9月にヘレスで別にテストを受けた。それでも選ばれたのは、カマラだった。

カマラ自身は、加入にあたって次のように感謝を述べている。

「F1ドライバーとしてTGRハースF1チームに加わることができて、とても嬉しいです。キャリアにとって大切な一歩ですし、信頼してくれたジーン・ハースさんと小松さんに感謝しています。長年支えてくれたフェラーリ・ドライバー・アカデミー、そしていつもそばにいてくれた家族にも、心から感謝しています。今は、この新しい挑戦に向けて、できる限りの準備をすることに集中しています。学ぶことはたくさんありますが、チームと密に協力し、マシンを理解して、ドライバーとして成長し続けるのが楽しみです」

6歳で始めた旅の行き先が、ついにF1となった。

2027年、ハースのガレージでヘルメットをかぶるラファを、まずは「学ぶ」姿勢の新人として見守りたい。ブラジルのファンに向けて本人が願った「いいショー」が、日本のファンにも届くことを期待している。

2027年のF1グリッドには、ガブリエル・ボルトレトに続き、ラファエル・カマラが並ぶ。ブラジル人ドライバーが2人揃うのは2016年以来となる。カマラはブラジルの英雄としての一歩を踏み出すのか。太陽の国のためにも、セナ以来長らく途絶えているブラジル人王者の誕生をそろそろ見てみたい。

画像: 2026年のハースF1マシン「VF-26」。 (C)TGRハースF1

2026年のハースF1マシン「VF-26」。 (C)TGRハースF1

文=松永裕司
コラムニスト。CNN Chief Director、MSNシニア・プロデューサー、電通スポーツ企画開発部長、NTTドコモ・ビジネス戦略担当部長などを歴任。現ニールセンスポーツジャパン代表取締役兼グレースノート取締役。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭をアトランタで過ごす。最近、大学でF1のマーケティングについて講演、図に乗っているという噂も…。

2026 F1世界選手権グランプリ|直近3戦の開催日程

放送・配信:フジテレビNEXT ライブ・プレミアム、フジテレビNEXTsmart、FOD F1™プラン

【第19戦 メキシコシティGP】
FORMULA 1 GRAN PREMIO DE LA CIUDAD DE MÉXICO 2026
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11月1日(日)6:00~ 予選
11月2日(月)5:00~ 決勝

【第20戦 サンパウロGP(ブラジル)】
FORMULA 1 MSC CRUISES GRANDE PRÊMIO DE SÃO PAULO 2026
11月7日(土)0:30~ フリー走行1回目
11月7日(土)4:00~ フリー走行2回目
11月7日(土)23:30~ フリー走行3回目
11月8日(日)3:00~ 予選
11月9日(月)2:00~ 決勝

【第21戦 ラスベガスGP】
FORMULA 1 HEINEKEN LAS VEGAS GRAND PRIX 2026
11月20日(金)9:30~ フリー走行1回目
11月20日(金)13:00~ フリー走行2回目
11月21日(土)9:30~ フリー走行3回目
11月21日(土)13:00~ 予選
11月22日(日)13:00~ 決勝
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