中学時代の頭角から名門・桜花学園、Wリーグトップへの歩み
「もう、ずっと緊張していました。昨日の(名古屋から東京への)移動だけでも緊張していて、(試合前の)アップもまだ一度もしたことなかったし、遠征のリズムも全然分からなかった。昨日からすべてが初めてで、なんか新鮮でしたね」
『所変われば品変わる』ではないが、Wリーグで17年目のシーズンを迎えるベテランも、新天地での1年目、それこそチームに本格合流して約1カ月という時期では、まだ慣れないことの方が多いようだ。
渡嘉敷来夢。長きにわたって女子バスケットボール界を引っ張る193センチのパワーフォワードは、今シーズン、アイシンウィングスからトヨタ自動車アンテロープスに活躍の場を移した。
多くの説明はいらないであろうが、ここで少し彼女のこれまでに触れたい。
『渡嘉敷来夢』の名前が一躍全国区になったのは遡ること21年前、彼女が中学2年生、あと数日で3年生になるという春のことだ。当時、各都道府県の選抜チームが一堂に会して優勝を争った「ジュニアオールスター」(正式名称は都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会)が毎年3月末に開催され、中学1、2年生に出場資格があった同大会に渡嘉敷は2年生のときに出場(大会自体は2019年に幕を閉じた)。埼玉県代表として強豪チームが居並ぶ中で優勝を果たした。中学からバスケットボールを始めたという彼女のプレーはまだ荒削りではあったものの、高身長に加えて未だかつて見たことのないポテンシャルの高さやスケールの大きさに一気に注目の的となった。それから半年後、3年生の夏には春日部東中学校の一員として全国中学校大会に出場しチームのベスト8入りにも貢献している。
その後、故・井上眞一氏が指導にあたる名門の桜花学園高(愛知県)に進学。井上コーチが「100年に一人」と語った将来性豊かな逸材は、名将のもとでメキメキと力を付け、1年生から主軸に。3年の頃になると無類の強さを発揮した。当時の全国大会はインターハイ、国民体育大会(現在は国民スポーツ大会)、ウインターカップの3大会が1年間で行われたが、渡嘉敷は桜花学園に在籍した3年間で敗れたのは2年生の国民体育大会のみと、実に8度の優勝に輝いている。
高校卒業後は鳴物入りでENEOSサンフラワーズ(当時はJX)に入団。1年目からチームの中心を担い、ルーキーイヤーにはWリーグ史上初となるルーキーオブザイヤー(新人王)とレギュラーシーズンMVPのダブル受賞という快挙を達成した。それ以降もWリーグと皇后杯とで合わせて20を超える優勝回数と個人ではMVPをはじめ得点、リバウンドなどのランキングでも1位となり、幾多のタイトルを獲得。そして2024-25シーズンからはENEOSを離れてアイシンへ移り、そこでの2シーズンでは入替戦に出場したチームのプレミアリーグ残留に一役買う働きを見せた。
また、日本代表ではオリンピックに1回、今年9月に出場した「FIBA女子ワールドカップ2026」(ドイツ開催)を含めて女子ワールドカップには3回出場。女子アジアカップでも3度の優勝に輝き、大会MVPも2度獲得している。

2026年9月5日、ドイツ・ベルリンで行われたFIBA女子バスケットボールワールドカップ2026のドイツ戦で、パスを狙う日本代表の渡嘉敷来夢。Photo by Lilou Cassin/Eurasia Sport Images/Getty Images
大神HCとの共鳴――トヨタ自動車移籍を決めた理由
そんな輝かしい実績を持つ渡嘉敷が今シーズン、移籍を決意したのには、「もっと上手くなりたいというのもありますし、やっぱりもう一度、ファイナルの舞台に立ちたいと思いました」という理由があったから。さらに「いくつかのチームからオファーをもらった中、シンさん(大神雄子ヘッドコーチ)が『タク(渡嘉敷)はもっともっと上手くなれる』と言ってくれて。ほかのチームからも優勝のために必要だと言っていただき、それはうれしかったのですが、もう一皮も二皮もむけたいという自分の思いと(大神ヘッドコーチの考えとが)一致した感じでした」ということがトヨタ自動車を選ぶ決め手となった。
トヨタ自動車の大神ヘッドコーチは現役時代、ENEOSの選手として渡嘉敷とは3シーズンをともに戦った。指揮官となった今、渡嘉敷についてこう語る。
「私がタク(渡嘉敷)に言ったのは、『いい意味でもう少しセルフィッシュに行こう』ということ。女子ワールドカップではディフェンスをはじめ、リバウンドにもからんでブロックショットでもリーダース(1位)を取っています。でも、やっぱり彼女のオフェンスというのは一緒にやってきた身としてはすごくやりやすかった。だからディフェンスだけでなくオフェンスでもしっかり顔を出してほしいということは話をしました」

Wリーグでは、トヨタ自動車の指揮官として渡嘉敷と共に戦う大神。写真は、2026年9月17日、愛知・名古屋アジア競技大会の女子バスケットボール日本対香港戦の日本代表の大神雄子ヘッドコーチ。Photo by Zhizhao Wu/Getty Images
初陣での手応えと、再び「ファイナルの舞台」を目指す決意
冒頭、渡嘉敷が緊張していたのはトヨタ自動車としての公式戦デビューとなった10月16日の「大樹生命 Wリーグユナイテッドカップ 2026-27 グループステージ」でのこと。チームは日立ハイテククーガーズに勝利して年明け1月のファイナルステージ進出を決めたが、この試合で渡嘉敷は11得点4リバウンドをマーク。相手の外国籍選手へのディフェンスも光り、攻防において奮闘した。
ただ、指揮官の『セルフィッシュに』という要望にはまだ達していないことも渡嘉敷自身は承知しており、「本当ならもう少し簡単に点を取れるタイミングがあったのかなと思います」という。一方で「でも、今日がスタートなので。しっかりと様子も見ながら行くところは行く、(パスを)出すところは出すというのは見せられたと思うのでそこは良かったです。自分としては本当にここがスタートかなという感じです」と、まずは初陣を無事に終えたことに安堵の表情を見せていた。
それこそ今は「周りを見るというよりは練習でも自分に必死すぎてその余裕はない」と、言う。だからこそ試合を通して「成功例と失敗例が見つかったと思うし、今までは何がうまくいっていて、何がダメだったかが自分自身も分かっていなかったけれど、試合の中でベンチのメンバーとも話ができたので、いい時間になったと思います」と、ユナイテッドカップは渡嘉敷にとっても収穫の多い試合となった。
その試合中、大神ヘッドコーチはプレーだけでなく渡嘉敷のある行動を賞賛した。それは緊迫した時間帯でのチームメートへの声掛けだ。
「コートに入ったときに『今、あわてない』というようなことを言っていました。ゲームの中での締めるところ、これがうちのチームには必要だったので、ああいう場面で声を掛けてくれる選手がいるというのは、私たちが(厳しい戦いを)勝ち切るための準備ができたかなと思っています」と、大神ヘッドコーチは目を細めた。
渡嘉敷はWNBAをはじめ、国内外や男女問わずいろいろな試合を積極的に見るが、自身も出場した女子ワールドカップの決勝戦もしっかりと見たという。その決勝で活躍し、大会MVPを獲得した女子アメリカ代表のブリアナ・スチュワートはWNBAのシアトル・ストーム時代のチームメートでもある。その彼女について渡嘉敷は「やっぱりベテランて必要なんですよね、シンさんもそう思っているのではないかと思います」と、自身を奮い立たせるようにこう発した。
まずはファイナルの舞台へ。Wリーグではここ3シーズン遠ざかっているステージに立つために、渡嘉敷は気持ちを新たに大きな一歩を踏み出した。
10月31日開幕の『大樹生命Wリーグ 2026-27シーズン』。渡嘉敷と大神ヘッドコーチが、新たな挑戦の中でどのようなチームを作り上げていくのか、注目したい。
【取材・文=田島早苗】
『月刊バスケットボール』(雑誌)『バスケットボールキング』(WEB)の編集部を経てフリーランスに。中学や高校、大学などの学生をはじめ、WリーグやBリーグ、男女日本代表と様々なカテゴリーを幅広く取材している。
大樹生命Wリーグ 2026-27シーズン
2026年10月31日(土)に開幕の「大樹生命Wリーグ 2026-27シーズン」。今季も「Wリーグプレミア」(8チーム)と「Wリーグフューチャー」(7チーム)の2部制で開催され、全国各地で熱戦が繰り広げられる。
渡嘉敷来夢が加入したトヨタ自動車アンテロープスは、Wリーグプレミアに参戦。大神雄子ヘッドコーチのもと、再び頂点を目指す。
【試合日程・中継配信情報】
試合は「バスケットLIVE」でライブ配信。最新の試合日程、対戦カード、試合結果、配信情報は「Wリーグ公式サイト」「バスケットLIVE」各公式サイトをチェック!

