炎天下のグラウンドで起きた珍事件
これは、私の同僚であるAから聞いた、彼が高校生だった頃の話です。
Aは高校時代、野球部に所属しており、甲子園を目指して練習に励んでいました。事件当日は、朝から気温が35度を超える猛暑日。Aたちは、照りつける太陽の下、汗だくでノックを受けていました。集中しなければならないのはわかっていたが、意識が朦朧とするほど暑かったといいます。
そんなときでした。グラウンドの向こう側から、突然「うわあああ!」という叫び声が響いてきたのです。声のするほうを見ると、一直線にこちらへ走ってくる裸の男の姿がありました。あまりに突然のことに、部員たちは一斉に凍りつきました。
「変質者や!逃げろ!」
グラウンドは一瞬にして大パニック。バットを構える者、後ずさりする者、右往左往する部員たち。マネージャーはスマホを握りしめ、まさに110番通報の寸前だったといいます。
ところが、男がすぐ近くまで迫ってきた瞬間、部員の一人が声を上げました。
「あれ……陸上部のU先生じゃね?」そう、絶叫しながら突進してきた「不審者」の正体は、隣で練習していた陸上部の顧問であるU先生だったのです。あまりの暑さに木陰で着替えをしていたところ、運悪くスズメバチの大群に追いかけられ、パンツ一丁で逃げ回っていたのでした。
張り詰めていた緊張の糸が、音を立てて切れました。
次の瞬間、グラウンド全体が爆笑の渦に包まれます。
通報寸前だったマネージャーも、バットを構えていた部員も、腹を抱えて笑い転げました。
U先生は、蜂に追われながら「笑ってないで助けてくれよ!」と半泣きで走り去っていったそうです。その必死な後ろ姿が、また部員たちの笑いを誘いました。
その日以来、この陸上部の顧問には「裸の変質者先生」という不名誉なあだ名が定着しました。
夏の練習がどれだけ地獄のように暑くても、この話を持ち出せば部員全員が笑ってしまう。Aにとってあの珍事件は、苦しい夏を乗り越える最高の思い出であり、今も語り草になっているそうです。
【体験者:40代・男性、回答時期:2020年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:タニグチ
小学1年から水泳、小学4年からは野球に打ち込み、大学卒業までの実に十数年をグラウンドで過ごしてきた30代。高校では主将としてチームをまとめ、大学では神宮の舞台にも立った。引退後は中学硬式(シニア)で指導者としてもキャリアを重ね、「する側」「観る側」「教える側」のすべての視点からスポーツと向き合ってきた。
プレイヤー・キャプテン・指導者という異なる立場を経験する中で、勝ち負けの記録には残らない人間関係や、試合の裏側で起こる思わぬドラマに強く惹かれるように。チームメイトや教え子、友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、感動や驚き、時にはちょっとした仕返し劇まで、スポーツの現場で生まれる人間ドラマをコラムとして執筆している。

