35度の真夏日も、迷わずリンクへ向かった小学2年生
外気温35度を超えた8月のある日の話です。
夏休み。
当時小学2年生だった娘は、その日も当然のように朝早く目を覚まし、せっせとウェアに着替え、ボトルに水を入れ「ママ!今日もリンク行くよ!」と声をかけてきました。
同じ年頃の子どもたちが水着に着替え、朝からプールへ出かけていく季節です。
娘が所属するアイスホッケーチームでも、この時期は自主練習を休む子が多くいました。
同級生を横目に、スケーティングの練習に打ち込んだ一日
車で送る途中、娘が「本当はみんなみたいにプールに行きたい」とぽつりと漏らしました。
「今日はやめとく?」そう尋ねる私に、「ううん、プールはリンクがお休みの時に行けばいいから」と、その日もリンクへ向かう足を止めることはありません。
リンクに着くと、娘はいつも通りスケート靴の紐をきゅっと結び、黙々と滑り始めます。
何度も何度も苦手なスケートのフォームにチャレンジをし、転んでも「もう一回見てて」と地道にスケーティングの基礎を積み重ねていきました。
お弁当も持参して、気づけば、朝から夕方まで、ほぼ氷の上で過ごしていたことになります。
帰りの車から見える外には、プールバッグを抱えた同級生たちが楽しそうに歩いていく姿もありました。
「休ませては?」の心配に、娘が返した予想外の一言
翌日も、その翌日も、娘は同じようにリンクに通い続けました。
見かねた周囲の保護者から声をかけられたのは、その翌週のことでした。
「こんなに暑いのに、夏くらい休ませてあげたら?」
悪気のない、むしろ気遣ってくれてのひとことでした。私自身、内心では同じことを何度も考えていました。友達と過ごす夏休みの記憶は、今しか作れないものだからです。
「そうですよね……」と言葉が出かかった私の横から、娘が、その保護者に向かって迷うことなくこう答えました。
「リンクの中は一番涼しいから大好きなの」
「それに、みんなが遊んでいる時がチャンスでしょ?」
一瞬、その場にいた大人たちが顔を見合わせました。
我慢して練習しているのではなく、涼しい場所でスケーティングをすることを、娘は純粋に楽しんでいたのです。
そして、誰もが楽な方を選びたくなる夏に、娘は明確な意思を持って努力を選び続けていたのです。
その答えは、私も予想していなかったものでした。
涼しい理由の先にも変わらなかった、リンクに向かう姿勢
あれから2年が経った今年の夏も、娘はリンクに通い続けています。
「誰よりも滑り込む」
そう話す娘の表情に、迷いはありません。
真夏の炎天下で涼しい氷の上を選び努力を続ける姿勢は、今も変わらないままです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

