厳しい自主練に向けられる、周囲の冷ややかな言葉
これは、私の娘が4歳の頃の話です。
この頃の娘は、父に憧れてアイスホッケーを始めたばかりでした。
始めたと言っても、まだまだ氷の上を滑ることから習得しなければいけません。
「毎日練習する」と言う本人の意思で、平日も幼稚園帰りに夜ご飯のお弁当を持って自主練に通う毎日でした。
ある休日、リンクサイドから指導していた私に、周囲の保護者たちが向けてきたのは冷ややかな視線でした。「もっと膝を曲げて」「足が止まっている」と声をかけるたび、その視線は一段と厳しくなります。
「親のエゴでやらせている」「あんなに一生懸命にさせてどうするの」そうした言葉も、私の耳にはっきりと届いていました。
突然の顔面強打と、集まってくる大人たち
突然のアクシデントが起きたのは、朝からリンクで過ごし6時間ほどが経った頃でした。長時間の練習で足に疲労が溜まっていた娘は、ブレーキをかけた瞬間にバランスを崩します。
そのまま氷に顔面から激しく転倒したのです。慌てて駆け寄ると、娘は両方の鼻の穴から鼻血を出していました。
私はすぐにハンカチで鼻を押さえ、止血にあたります。すると周囲から、野次馬のように他の保護者たちが集まってきました。
帰宅を促す声と、4歳児が放った想定外の言葉
集まった保護者たちは、口々に「長時間の練習で足が疲れていたのよ」「娘ちゃん、もう無理しないで」と言い始めます。
鼻血が少し落ち着いたタイミングで、私も娘の体力を考え、「鼻血が止まったら、今日はもう帰ろうか」と声をかけました。周囲の保護者たちもすかさず「それがいいわ」と同調してきます。
大人たちが「本日は練習終了」の空気を作り上げたその時、娘がはっきりとした声でこう言ったのです。
「ううん、帰らない。このまま終わったら、転ぶのが怖いままになっちゃうから。もう一周してくる!」
娘の言葉に、周囲の保護者たちは一瞬で静まり返りました。
啞然とする外野を尻目に、再びリンクへ力強く向かう背中
すっかり鼻血も止まり元気を取り戻した娘は、啞然とする大人たちを尻目に、自ら立ち上がり力強くリンクへと飛び出していきます。
「親が無理やりやらせている」と決めつけていた外野は、4歳児が自らの意思で恐怖を乗り越える瞬間を目の当たりにしました。その後誰一人として言葉を発することはなく、蜘蛛の子を散らすように解散していったのです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材または体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

