成年チームへの挑戦
娘は小学2年生の夏、所属チームの練習は毎週末の1回のみ。それだけでは練習回数が少ないため「自主的に練習先を探してよい」というルールを使い自主的に練習回数を確保していました。練習場所としてお世話になっていたのは、同じリンクをホームにする高校生以上で構成された成年女子チームのビジター枠です。
誰でも入れたり乗れるわけではなく、成年チームのキャプテンが技術を見て判断したものです。「練習メニューは難しく感じるかもしれないけど、娘ちゃんの技術なら十分にこなせる」と言われました。所属チームと監督にも承諾を得て、参加日程は毎度伝え所属チームへの誠意も見せます。
新ルールで練習環境が無くなった
娘が小学3年生になった春、成年チームのAさんから声が上がります。「小学生を練習に混ぜるのは反対だ」と言うのです。娘とAさんは練習中同じメニューを離れて取り組んでいました。それでも、年下が交じることを快く思っていなかった様子でした。
ほどなくキャプテンから連絡が入り「説得しようとしたけど、多数決でチームの方針が後継育成よりも今が大事だとなってしまった」と伝えられました。併せて「チーム内アンケート結果で5年生以下は参加禁止」という新ルールが決定したそうです。
所属チームの練習は続きましたが、成年チームには通えなくなりました。
大学生チームからの招待
その年の夏、練習先を探していた私たちに声をかけてくれたのは、ある大学男子アイスホッケーチームのキャプテンでした。私たち親子の努力を見ていた大学関係者が「あの子を今度の合宿に参加させてやってくれ」と頼んでくれていたのです。
「娘さんの技術なら十分。むしろうちの1、2年生の方が下手かもしれません」そう笑って話しかけてきてくれた彼から「臨時コーチとして関東の指導者を招いて、スケーティング合宿を2泊3日で行います。他には声をかけません。よかったら出られるところだけでもどうぞ」と思わぬ誘いを受けます。
迷いなく参加を決め「よろしくお願いします!」と親子で頭を下げました。
合宿最終日、コーチからの言葉が世界を広げた
アイスホッケーには、ビジター参加者は練習メニューで最終列に並ぶという暗黙のルールがあります。娘もこれに従い合宿の練習に最終列で参加しはじめました。しかし、合宿2回目の練習で、コーチとキャプテンの指名で、3列目まで上がります。
全6回の練習を終え、汗を拭き着替えをしていると「合宿は楽しかった?」とコーチが話しかけてきました。そして、娘の学年を改めて尋ね、こう言いました。「3年生か。正直、関東には娘さんくらいのレベルの選手は大勢いるよ。それでも、上には上がいる環境に身を置くことは大切だ。もっと広い世界で挑戦を続けなさい」この言葉を、娘は黙って聞いていました。
九州を出る決意
合宿から帰った娘は、身を置く環境に敏感になり、「本格的に学べる場所に行きたい」と口にするようになりました。それまで私自身も、動画サイトで技術や知識を深めれば九州でも同じレベルに達せられると考えていましたが、意識レベルの高い指導者の声かけや練習メニューの組み方を目の当たりにし、その差を知りました。もうこの時には、理不尽なルールで居場所を奪おうとした環境に、微塵の未練もありませんでした。
「もっと広い世界で挑戦をするために、次の春には九州を出よう」、そう親子で決意した夏が北海道移住につながっていきます。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

