点差が開いた試合終盤で
娘が小学2年生の時に出場した、アイスホッケーのU9全国大会でのことです。この大会は、年に一度、各地域の代表チームが集まって競う大会です。対戦した相手は、格上の関西チームでした。試合終盤には大差がついていました。シュート数も減り、ベンチの声も次第に小さくなっていく中、監督はセンターだった娘に「お前が行け」とフェイスオフを命じました。
フェイスオフは、審判がパックを落とす瞬間に両チームのセンター同士がスティックを合わせて奪い合う場面で、力の差が如実に出る瞬間でもあります。
対峙したのは、体格が二回りほど大きい相手チームの3年生キャプテンでした。娘はその選手を見上げる形でセンタードットに入りました。
30秒の睨み合い
私はちょうどリンクサイドのボード裏からこの場面を見ていました。センタードットを挟んで向き合う二人の距離は、数十センチほどしかありません。言葉を交わす様子はなく、ただ視線だけがぶつかり合っています。
笛が鳴るまでの30秒ほど、私は固唾を飲んで見守っていました。笛が鳴った瞬間に体格で押し切られてしまうのではないかと思うほどの迫力が相手選手から伝わってきましたが、娘からも、それに負けない気迫が伝わってきます。
笛が鳴り、パックが落ちた瞬間、スティックを素早く出して主導権を握ったのは娘でした。後ろに控えていた、チーム内で得点率の高い選手にパックをつなぎ、そのままの勢いでチームが得点を挙げたのです。
いつもと違った、あの表情
これまでの娘は、勝っても負けても淡々としている子でした。試合後は決まって「楽しかった!」と言うのが常で、試合で感情をあらわにする姿を見た記憶はありません。
だからこそ、この試合で相手を見上げながら一歩も引かずに睨みつけていたあの30秒は、それまで見たことのない表情だったのです。
試合後に聞いた娘の一言
試合は大差のまま、負けに終わりました。
「あの時、すごく睨んでたね。何か言われたの?」試合後、そう尋ねた私に娘はこう答えました。「何も言われてない。ただ、フェイスオフに立った瞬間、体が小さいからって鼻で笑われたのが気に食わなくて、睨み返してやった。パックを取った瞬間、こっちも鼻で笑い返してやったんだ」
まさかこんな一面を見られるとは思わず、私はその言葉を何度も思い返しました。あの30秒で顔を出した負けず嫌いな性格は、しっかりと娘の中に残っています。今では北海道の地で体格差や実力差に関係なく、全力でぶつかっていく、恐れ知らずの娘が今日もリンクを駆け抜けています。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

