主力の女子選手だった娘に向けられた言葉
これは、娘が小学2年生になったばかりの頃の話です。
当時のチームに加入して1年ほどが経ち、練習にも試合にも、男子選手に混じって参加していました。チームの男女比はほぼ同じでしたが、主力として試合に絡む女子選手は娘だけでした。防具を着けてしまえば、氷の上で男女の区別がつく場面はほとんどありません。
ある日、同じチームの男子選手の保護者から、こう声をかけられました。「うちの息子には、娘ちゃんが女の子だから、接触プレーをしないように言っています」。気遣いという体裁をとってはいましたが、その言い方には嫌味が混じっていました。
返す言葉が見つからず、娘にも伝えなかった
その男子選手は、娘と同じ学年で、体格にも大きな差はありません。それでも、女の子であることを理由に、練習中の当たりを避けるよう息子へ伝えている、という話でした。主力として試合に絡んでいるのが娘だけだったことを踏まえれば、その言葉が何を含んでいるかは察しがつきます。
私は返す言葉が見つからず、「そうなんですね」とだけ答えました。娘本人には、こう言われたことを伝えていません。当たりに行くことをためらわせたくなかったからです。
後日の練習中、娘が思い切りぶつかっていった相手
後日の練習中のことです。ゲーム形式のメニューで、娘は自陣でパックを奪われました。そのまま引き下がらず、相手の男子選手を追いかけ、進路をふさぐように思い切り体をぶつけていきます。相手は体勢を崩し、娘はパックを奪い返して前へ運びました。
隣で見ていたのは、まさにその男子選手の保護者です。少しの間を置いて、その保護者が私に聞いてきました。「あれ、娘ちゃんは接触して大丈夫なのね」
「逆に大丈夫でしたか、息子さん」
私はこう答えました。「接触のあるスポーツだと分かった上で、本人が選んでいるので」。そして、続けてこう聞き返しました。「逆に大丈夫でしたか、息子さん」
その保護者は、口を開いたまま言葉が続かず、そのまま黙って氷の上へ視線を戻しました。うちの息子には接触プレーをさせていない、という話が、それ以降その保護者の口から出ることは二度とありませんでした。
当の二人は、私たちのやり取りをよそに、当たりに行っては笑い合い、接触プレーそのものを練習の中で繰り返すようになります。ぶつかられた側の男の子も、次は自分から当たりに行きました。大人が引こうとしていた線は、当の二人には最初から関係のない話だったのです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

