足の速さを武器に「代走なら任せろ!」と豪語するAが、試合でまさかの監督指示に振り回される──?
「俺、代走だけは得意だから!」
高校の野球部に、足の速さだけは誰にも負けないと自信満々のAがいた。
打撃や守備では目立たないが、短距離走ならチーム1。
本人もそれを自覚していて、普段から「俺、代走なら絶対使えるっすよ」と豪語していた。
ただし、盗塁が上手いとは限らない。
以前の練習試合では、代走で出た直後に牽制球であっさりアウトになった。
「次は絶対いけます!」
そう言っていたAに、再び代走のチャンスが訪れた。
ついに出番!「盗塁決めます!」
地区大会予選の日、終盤の大事な場面で味方が出塁した。
監督がAを呼ぶ。
「A! 行こか」
「はい!」
待ってましたとばかりに一塁へ向かうA。
「今日は盗塁決めますよ!」
意気込んだところで、一塁コーチャーが近づいてきた。
「A、監督から。今日は走るなって」
「えっ?!」
Aは思わず立ち止まり、聞き返した。
監督の指示は「走るな」
「俺、絶対いけますって!」
「いや、俺に言われても……」
そこへベンチから声が飛ぶ。
「お前、前に牽制で刺されたじゃん!」
Aは振り返る。
「それはもう忘れて!」
さらに別の部員が、
「その前の試合でも刺されたよな!」
「言わんでいいって!」
ベンチは大爆笑だった。
結局、Aは盗塁を封印され、言われた通り小さなリードで一塁に立った。
すると次の打者がヒットを放ち、Aは二塁へ進む。
さらに内野ゴロで三塁へ進み、最後は犠牲フライでホームインした。
ベンチからは拍手が起こる。
Aも胸を張った。
「ほら、ちゃんと帰ってきましたよ!」
監督は笑いながら、「今日は走らなくて正解だったな」と言っていた。
爆笑をかっさらった「俺、代走やのに」
Aはふと気づいた。
「……俺、代走やのに一回も走ってない」
ベンチは再び大爆笑。
「それでも仕事したんやからいいやん!」
「次は牽制で刺されるなよ~!」
仲間に笑われながら、Aも笑った。
そして無事に、試合に勝つこともできた。
足の速さを自慢していたAにとって、代走なのに一度も走らなかったこの出来事は、今でも仲間内で語られる思い出になっている。
【体験者:30代・男性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:maki
学生時代からスポーツ・部活動に打ち込んできた40代。現在はサッカースクールに通う子供の親として、スポーツと関わりを持つ。自身の経験談はもちろん、チームメイトや友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、スポーツの現場で起きた人間ドラマをコラムとして執筆している。

