秋の県新人戦、引退したOBが応援に来てくれた
私は高専のアーチェリー部に所属していました。秋の県新人戦は、1年生が初めて公式戦の射場に立つ大会です。当日、前年に引退したOBのTさんが応援に駆けつけてくれました。初めての公式戦を迎えるKくんにとっても、心強いはずでした。
射場の後ろから続いた「肘が落ちてる」という声かけ
試合が始まると、Tさんは射場のすぐ後ろに立ち、Kくんへ「肘が落ちてる」「もっと引いて」と声をかけ始めました。指摘の内容自体は正しく、悪意もありません。
しかしKくんは一射ごとにフォームを直そうとし、意識し直すたびに動作が止まりました。時間に追われるように矢を放ち、的中数は落ちていきます。私は状況に気づきながら、声かけを控えてほしいとは言い出せませんでした。
「どっちを聞けばいいですか」の一言で腹を決めた
流れが変わったのは、Kくんが泣きそうな顔で「どっちを聞けばいいですか」と尋ねてきた場面でした。迷ったまま試合が進めば、最後まで自分の射ができません。私はようやく腹を決め、休憩に入ったところでTさんへ頭を下げました。
「今日は撃ち終わるまで、声をかけないでもらえますか」
Tさんは一瞬黙り、「悪い、俺がやりすぎた」と応じてくれたのです。その後は、記録用紙の記入と矢取りに回ってくれました。
午後の立ちで自己ベスト、部で決まったOBの役割分担
午後の立ちで、Kくんは自己ベストを更新しました。声が止み、自分のペースで矢を放てるようになった結果です。大会後、Tさんは「見てるだけって、意外としんどいな」と笑っていました。この言葉をきっかけに、部ではOBが応援に来る際の役割分担を決めるようになりました。
まとめ
起きたのは、悪意のない指導が初出場の1年生を追い詰めた出来事でした。声かけを止めてもらった後、Kくんは自己ベストを更新し、部には役割分担という決まりが残りました。
善意で口を出す先輩と、断れない後輩という関係は、多くのチームにあると思います。心当たりがあるなら、次の大会の前に、試合中の担当をチームで一度決めてみてください。
【体験者:20代・男性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:Yutel_06
幼少期からさまざまなスポーツに親しんできた、10代の現役学生ライター。合気道やテニス、アーチェリーなど、ジャンルの異なる競技と向き合ってきた。自身の経験に加え、周囲にもスポーツに取り組む友人や知人が多く、競技の裏側や選手ならではの悩み、恋愛、人間関係など、リアルなエピソードに触れる機会がある。そうした実体験や身近な声をコラムとして執筆している。

