熱狂的な高校野球ファンの2人
夏の甲子園地方大会。バックネット裏で野球観戦をしていた私だが、その少し前方にいた中年男性2名が終始大声で会話をしていた。
おそらく高校野球ファンで、数多くの大会を見に行っているのだろうということはその会話内容から推察できた。また、その試合をしていた高校のOBのようで、相当熱が入っているご様子である。
驚くほどの野次を飛ばし始め……
しかし、周りの観客が思わず振り向いたりジロジロ見たりするくらいの大声。その声はどんどんヒートアップしていき、ピッチャーが一球投げるごとに大声で野次を飛ばすようになってしまった。
高校生の選手たちに対しての野次、審判に対しての野次、監督に対しての野次……グラウンドまで聞こえているのではないかと思うくらいひどいものだった。
中年男性たちをたった一言で制圧
「やめていただけますか」
痺れを切らしたように男性Aが声を上げた。丁寧な言葉であったが、静かな声の中に怒気が含まれていることは誰が聞いても分かるものだった。男性Aはたったその一言しか発しなかったが、中年男性2名も黙ってしまうような強さがあり、私まで思わず背筋が伸びた。
周りの観客も中年男性たちに冷たい視線を送ったり静かに頷いたりと、全員が男性Aに賛同するような空気に変わった。2人はブツブツ言いながらもその後は野次を飛ばすこともなく無事に試合終了をむかえた。
男性Aの正体とは?
先程の男性Aだが実は野次を飛ばされていた野球部の保護者だったのだ。息子の苦楽を誰よりも近くで見てきたであろう男性A。
「やめていただけますか」──たった一言であったが、そこに込められた思いは相当なものだったのだろう。あの強さはそこからくるものだったのか、と妙に納得してしまった。
主役は選手たち。選手たちがのびのびと悔いなくプレーできるように、我々大人たちは立ち居振る舞い方をしっかりと考えたいものである。そして子を思う親の気持ちは計り知れないほど深いということに改めて気付かされた私であった。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年9月】
本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村木 あすみ
学生時代からスポーツ・部活動に打ち込んできた30代2児の母。また、公立中学校教員として勤務した経歴もあり、部活動にも携わってきた。自身のスポーツ経験や観戦、そして教育現場で見聞きしてきたリアルなエピソードをコラムとして執筆している。

