リンクサイドでかけられた一言
娘が4歳の時の話です。当時の娘はアイスホッケーのチームに所属し、リンクの休館日を除いてほぼ毎日練習に通っていました。私はいつも、リンクサイドからその様子を見学していました。
ある日、同じチームの保護者から声をかけられます。「いいですよね、パパも経験者だし監督にも可愛がられてて」娘の父親はアイスホッケーの経験者で、そのことはチーム内でも知られていました。私はその場では笑顔で受け流し、氷上の娘に目を戻しました。
監督と選手のやり取りを見返して
言われた通りなら、氷上にその証拠があるはずです。
私は改めて、監督と選手のやり取りを見返しました。
監督が娘にだけ長く時間を割くことはなく、試合で優先して起用することもありません。ただ、娘と監督の間には、短いやり取りが積み重なっていました。娘が挨拶をすると、監督は必ずにこやかに返してくれます。「今日も元気だな」と一言添えてくれることもあり、そこから二言三言の会話が続きます。
氷上でも、娘の動きが崩れた時には、短くても的確な指示をその場でくれていました。一方で、声をかけてきた保護者の子どもには、監督が個別に指導する場面がほとんどありません。接し方の違いがどこから来ているのか、私は練習の前後まで含めて見ていきました。
思い当たったのは基本の挨拶だった
行き着いたのは、着飾ることのない基本の挨拶でした。
娘がチームに入った当初から、私は更衣室に入る時の「おはようございます」と、練習を終えて出る時の「ありがとうございました」を、氷上まで聞こえる声で言うよう徹底させていました。
一方でその子が更衣室や氷上で声を出す場面を、私は見たことがありませんでした。後日、同じ保護者と顔を合わせた時、私は「特別なことはしていないんですが、挨拶だけは誰よりもしっかりと教えているんです。よかったら参考にしてみてください」と伝えました。相手は短く相槌を打ち、その話はそこで終わりました。
変わらなかった親子と、娘に話したこと
しかしそれ以降も、その親子の過ごし方は変わりませんでした。
練習開始のギリギリにリンクへ入り、終わればそそくさと帰っていきます。更衣室から挨拶の声が聞こえることはなく、監督がその子に個別の指導をしている場面を、私は最後まで目にしませんでした。
「人のフリ見て我がフリ直せ」ということわざの通り、私はこの出来事を、娘に礼儀の大切さを改めて話すきっかけにしました。挨拶は誰かに評価してもらうためのものではありません。それでも、続けてきた分だけ、氷上で監督から娘に声がかかる回数が増えていたのは確かでした。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。
