中古で買い替えた新しいスケート靴
娘が小学2年生の頃の話です。
アイスホッケーのスケート靴は足の成長に合わせて買い替えが必要で、新品で揃えると3万円からかかります。成長に合わせて履き替えるたびにその金額を払うのは簡単ではなく、私たちは中古を扱うショップやインターネットで、1万円程度でサイズの合うものを探していました。
スケート靴は、足を包むブーツの部分と、氷に接する刃がホルダーでつながった構造をしています。同じサイズでも、モデルが変われば素材の厚みも刃の長さも変わります。
この時に手に入れた靴は、それまで履いていたものとはモデルが変わっていて、持った時点で以前より重さがありました。
「ママ、ちょっと重い気がする」
新しい靴を初めてリンクに持ち込んだ日、娘はいつも通りに履いて氷に出ていきました。
一周して戻ってくると、フェンスのところで足を止めます。「ママ、ちょっとこれなんか重い気がする」表情を曇らせるでもなく、気づいたことをそのまま報告するような言い方でした。娘は一周する間に、氷を蹴る感覚の違いを拾っていたことになります。
硬い、重い、使いづらい。防具でもスティックでも、道具が変わった時に子どもが最初に口にするのは、まだ慣れていないからこその違和感です。
とっさに口から出た説明
正直に言えば、私にも重さの理由は分かっていませんでした。それでも、不満を抱えたまま氷に戻せば、そこに引きずられて練習に身が入らなくなります。それは避けたいところでした。
とっさに口から出たのは、こんな言葉でした。「布が増えて、その分エッジの刃も長くなったから、重く感じるんじゃないかな」前の靴との違いを、その場で思いついた順に並べただけの説明です。
それでも娘は自分の足元を見下ろしてから、「あ、確かにそうだね」と答えました。人の言うことを疑わずに受け取る子で、それ以上は何も聞いてきません。
娘が信じたのは靴の仕組みではなかった
理由を聞いた娘は、そのまま氷に戻っていきました。しばらく滑ってから戻ってくると、笑顔でこう言いました。「これいいかも、滑りやすいかも」
数分前まで重いと言っていた靴が、一番いい靴に変わっていたのです。重いという言葉は、その日から一度も出ていません。
ただ、私の説明に裏づけは何もありませんでした。娘が信じたのは、靴の仕組みではなく、私の言葉です。説明ひとつであっさり受け入れてしまう純粋さが、今でも印象に残っています。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

