努力だけでは届かない公式戦のマウンド
どんなに真面目に練習に打ち込み、結果を残していても、スポーツの世界にはときに「どうしても越えられない壁」が存在する。高校野球部でピッチャーを務めていたYさんにとって、その壁はひとつ下の後輩だった。
練習試合では先発を任されることもあったが、勝敗がすべてを決める公式戦となれば話は別だ。大事なマウンドには、いつもその優秀な後輩が立っていた。
歪んだ親心──息子の制止を無視した父親の直談判
事態が動いたのは、Yさんが3年生の春を迎えた頃だった。いよいよ高校最後のシーズンが迫る中、控えに甘んじる息子の姿に納得のいかないYさんの父親が動き出したのだ。
父親は何度も監督の自宅を訪れ、「なぜ息子を先発で使わないんだ! 公式戦で先発させてくれ」と直接抗議を繰り返した。周囲の他の控え部員たちの手前もあり、監督は頭を抱えた。だが、このままでは事態が収まらないという困惑と焦りもまた事実だった。Yさん本人は父親のエゴとも言える暴走を必死に止めようとしたが、息子の情熱を信じたい親心を止めることはできなかった。
こうして迎えた春の大会。Yさん自身のたゆまぬ努力が実を結んだ側面もあったが、複雑な背景を抱えたまま、彼はついに念願の公式戦先発マウンドを勝ち取った。スタンドには、晴れやかな表情で声援を送る父親の姿があった。
父親のエゴが打ち砕かれた瞬間
しかし、現実はどこまでも残酷だった。
必死の抗議で無理やり奪い取ったマウンドで、Yさんは緊張と重圧に押し潰され、初回から打ち込まれて一挙6失点。本来の投球には程遠い無惨な姿を晒し、わずか3回で降板を余儀なくされた。
その後、救援に立った後輩は見事な好投を見せ、父親の「息子を先発にさせろ」という主張がいかに見当違いで、チームの足を引っ張る身勝手なものだったかが誰の目にも明白となった。
自分の浅はかなエゴが息子の晴れ舞台を惨劇に変え、周囲からの冷ややかな視線を浴びることとなった父親は、二度と監督の前へ顔を出すことができなくなった。
【体験者:20代・男性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:kana
学生時代はソフトボールに打ち込み、現在も夫とスポーツ観戦を楽しむWebライター。周囲にはさまざまな競技に携わってきた友人や家族が多く、選手たちの努力や葛藤、チーム内で生まれる人間関係に強い関心を持っている。試合結果だけではなく、その裏側にあるエピソードや思わぬ出来事に目を向け、スポーツの現場で生まれる感動や驚きを、読者にわかりやすく届けるコラムを執筆している。

