これは、大学でラグビーを続けていたAさんに聞いた話です。激しい試合の前半、相手選手と正面から衝突して倒れ込んだAさんは、それでも後半のピッチに立ち続けました。決死のタックルを連発してチームを勝利に導いた後半戦。試合後、仲間の称賛に返したAさんの一言で、その場の全員が言葉を失います──。

前半、相手と正面から衝突して倒れた

これは、大学でラグビーを続けていたAさんに聞いた話です。

激しい展開になった試合の前半、Aさんは相手選手と正面から衝突し、そのまま倒れ込みました。すぐには起き上がれず、ピッチに倒れたまま時間が過ぎます。

視界も音も遠く、体の感覚もはっきりしない状態でした。

ラグビーで激しい接触が起きること自体は、珍しくありません。

やがてAさんは自力で立ち上がり、試合はそのまま続いていきます。

「いけます」と手を上げて後半へ

前半が終わり、周囲はAさんの交代を考えました。

しかし、意識が朦朧とする中でAさんが出したのは「いけます」というサインでした。負けられない試合で、チームの主力が自分から続行を申し出たことになります。

止める理由を探すより、その言葉を信じる空気のほうが強い場面です。Aさんは後半も、そのままピッチに立ち続けました。

後半のファインプレーと、試合後の一言

後半のAさんは、まわりが目を見張る動きを見せます。

相手の独走を止める決死のタックルをはじめ、局面ごとに体を張り続けました。チームはそのまま逃げ切り、勝利で試合を終えます。

ピッチを降りたAさんに、同期が口々に声をかけました。

「後半めっちゃ良かったぞ!」

称賛の言葉が並ぶ輪の中で、Aさんはきょとんとした顔のまま、こう答えます。

「後半の記憶が、1秒もないんです」その場にいた全員が、言葉を失いました。

実は、脳震盪を起こしていた

前半の衝突でAさんが受けていたのは、脳震盪でした。

記憶が残らないほどの状態で、後半を最後まで戦い抜いていたことになります。

脳震盪は、頭を直接打たなくても、首や体への強い衝撃で起きることがあります。意識を失わなくても起きますし、その場で受け答えができていても、あとから記憶が抜けていることがあります。

そして、いまのラグビーでこの続行は認められません。「疑わしい場合は必ず退場させる」という原則が世界共通で徹底されており、疑いのある選手は、本人が「いける」と言ってもその日のうちにプレーへ戻ることはできません。復帰は医師の確認を経て、段階的に進めます。回復しないうちに再び頭部へ衝撃を受ければ、重い後遺症や命に関わる事態を招くことがあるからです。

「いける」と本人が言えてしまうことこそ、脳震盪の怖さです。続行するかどうかの判断を、本人に委ねない。いまのルールが示しているのは、その一点です。

【体験者:30代・男性、回答時期:2026年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

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