保護者の迎えを待つ野球少年たち
僕が小学生の頃、少年野球チームに所属していた。団員同士の仲も良く、毎週楽しく練習に通っていた。その日は普段の練習場所よりも遠いところで練習をすることになっており、行き帰りは保護者による送迎をお願いされていた。練習を終え、僕たちは各々片付けをしたり談笑したりしながら迎えを待っていた。
Jくんを迎えに来た女性
また1台、迎えの保護者の車が駐車場に入ってきた。駐車場から僕たちがいるベンチまでは少し距離があったのだが、車から降りてきた女性は団員のJくんに向かって手を振っているように見えた。
一方Jくんは少し離れたところで片付けをしていたので、そのことに全く気づいていない様子である。僕は「おーい、おばあちゃん迎えに来たぞ! 」とJくんに向かって大声で言ったのだ。
おばあちゃんだと思った女性はまさかの……
僕の声で振り向いたJくんは、血相を変えて僕のもとに走ってきた。どうしたのだろうと思っていると、Jくんは驚くべき言葉を発した。「何を言ってるんだよ、あの人おばあちゃんじゃなくて俺の母ちゃんだよ!」と。
僕も当時小学5年生。悪気は全くなかったものの、失礼なことを言ってしまったということはもちろん分かる。その場にいた周りの団員たちも「Kくん、とんでもない間違いをしてしまったね」と言わんばかりの顔をしていたが、それと同時に焦りも隠せない様子だった。
“どうしよう、今振り向いたらJくんのお母さんがいるはずだ。謝るべきか? いや、もしかしたら聞こえていないかもしれない……”と頭の中で考えを巡らせているうちに、「みんなお疲れ様! ほら、J帰るよ!」という声が背後から聞こえた。僕は結局先程の無礼には触れることなく、2人を見送った。
発言は取り消すことはできない
僕が失礼なことを言っていたと、Jくんがお母さんに話してしまうかもしれない。しかしJも気を遣って話していないかもしれない。そもそも、Jくんのお母さんは、僕の失言を聞かなかったことにしてくれたのか、それとも聞こえていなかったのか──。Jくんのお母さんにも、Jくん本人にも、怖くて聞くことはその後もなかった。
少年野球チームで鍛えられ、声出しには自信のあった僕。よりによってその僕が大声で失言してしまった。自分の発言には気をつけなければいけないと肝に銘じた事件だった。
【体験者:30代・男性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


