ブルペンへ入れない女子投手
これは、私の高校時代の後輩の話です。
後輩は硬式野球部で投手を目指していましたが、同学年の男子部員から「女子の球速では打撃投手も無理」と笑われていました。ブルペンの順番表から名前を消され、空いた時間に投げようとすると雑用を押し付けられます。
監督の前では親切に振る舞うため、後輩は言い返せませんでした。それでも捕手の先輩と朝練を続け、ストライクゾーンを9分割した紙へ投球位置を記録します。速さではなく、同じ場所へ繰り返し投げられることが後輩の武器でした。
9分割の的を使った公開テスト
夏前、監督は投手候補を集め、ブルペンで制球テストを行いました。捕手の後ろへ9分割の的を置き、監督が投球直前に指定した場所へ15球投げる方式です。
測定順は名簿どおりで、今回は誰も後輩の名前を消せません。男子部員は速い球を投げましたが、力むと指定された枠から外れました。
後輩の球速は目立たなかったものの、外角低め、内角高めと指示が変わってもフォームを崩さず、15球のうち13球を指定された枠へ集めました。
「偶然」を止めた2度目の15球
男子部員が「的に当たったのは偶然だ」と言うと、監督は指定する順番を変え、もう一度15球を投げるよう告げました。後輩は2度目も12球を枠へ収めます。
さらに捕手の先輩が、3か月分の記録表を監督へ渡しました。日ごとの球数、投球位置、ストライク率が残され、調子の悪い日も大きく乱れていません。
監督は「打撃投手に必要なのは、打者が練習できる場所へ安全に投げ続ける力だ」と話し、後輩を候補へ加えました。笑っていた男子部員は何も言えませんでした。
外角低めで始まった役目
後輩が初めて打撃練習で投げた相手は、あの男子部員でした。監督から指定された外角低めへ正確に投げると、打者は狙いどおり逆方向へ打ち返します。
練習後、男子部員はブルペン順から名前を消したことを謝り、以後は仲間外れにしないようになりました。後輩は試合登板には届きませんでしたが、3年生まで打撃投手を務め、変化球を試す打者にも頼られる存在になります。
現在も、目立つ数字だけで人を決めず、その役目に本当に必要な力を見るよう心がけているそうです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


