例年激しい試合になる相手との地区大会
これは、私の娘が小学4年生の時の話です。
娘は北海道のアイスホッケーチームに所属していて、その日は地区大会の試合でした。対戦相手は、例年激しい試合になるチームです。
娘のチームには得点率の高いエース選手がいて、相手チームにとっては警戒すべき存在でした。
私はいつも通り、観客席から試合を見ていました。
シュートが外れるたびに上がった大人の声
エースでも、すべてのシュートが決まるわけではありません。
エースのシュートが外れた瞬間、相手ベンチから「イエーイ」「フー」という大きな歓声が上がりました。続けて「いいよいいよー」と煽る声も聞こえてきます。
声を上げていたのは、ベンチにいる選手ではなく監督やコーチ陣でした。これがシュートが外れるたびに繰り返され、試合を通して10回近くに及びました。
観客席では、そのたびにため息が漏れます。
娘のチームの保護者からのため息は、シュートが外れたことへのものです。
ところが、相手チームの保護者の側からも、ため息が聞こえてきました。
相手チームから見れば、失点しなかったことを喜んでいい場面です。しかし、そこで漏れていたのは、ベンチの大人たちの声に向けたため息でした。
試合は、娘のチームの勝利で終わりました。
ロビーへ戻る階段で聞こえた会話
試合後、私は観客席からロビーへ戻るため、階段を降りていました。
私のすぐ前を降りてきたのは、相手チームの母親2人組です。
距離が近かったので、2人は私がいることに気づいている様子でした。それでも会話を止めることはありません。
聞こえてきたのは、こんな言葉でした。「あの煽り方はちょっと見てて恥ずかしくなるよね」
私は言葉を返すこともしませんでした。2人の会話を耳にしながら、黙ったままロビーまで階段を降りていきました。
味方の観客席から返ってきたもの
2人は、あのベンチのチームを応援するために観客席にいた保護者です。
相手のシュートが外れれば、本来は手を叩いて喜んでいい立場にいます。
その2人が、試合中は10回近く上がった歓声を観客席で聞き続け、試合後、すぐ前に私がいると気づいていながら「恥ずかしくなる」と口にしました。向けた先は相手チームではなく、自分の子どもを預けているチームの監督とコーチです。
相手のミスに歓声を上げ続けたベンチは、試合に敗れました。
そして、我が子を託している保護者からの信頼さえ失っていく。私が立ち会ったのは、指導者の振る舞いが、味方の観客席から見放される瞬間だったのです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


