先輩風を吹かせたい陸上部の先輩Nさん
大学時代、陸上競技部に所属していた僕。部員同士の仲が良く、とても充実していたのだが、ひとつだけ問題があった。僕の3学年上にあたる先輩Nさんである。
Nさんは先輩風を吹かし、常に横柄な態度、きつい物言い、そして好みによって贔屓をする人だった。同学年の先輩たちですら手を焼いているようだった。敵に回すと面倒なタイプだったので、部員たちは気を遣いながらNさんと接していた。
いつまでも部活動に関わり続けるNさん
僕たち1年生は特にNさんから強く当たられ、毎日うんざりしていた。しかし、他の先輩たちは本当に親切な人ばかりだったので、4年生が最後のレースを終えて引退することが決まったとき、寂しい気持ちでいっぱいだった。
その一方「やっとNさんが引退した」とほっとしている自分がいたのも事実である。口にしないだけで、それはきっと他の部員も同じ気持ちだったと思う。
ほっとしたのも束の間、引退から数日後、Nさんはもう練習に顔を出していた。そして大学を卒業してからも頻度は減ったが練習に来ることがあり、新入部員に向かってまたいつものように偉そうな指導をしていた。Nさんがこの部活に関わらなくなる日はくるのだろうか……。そう思っていたが、さすがに社会人になったNさんも忙しくなったのか、いつの間にか練習に来ることはなくなっていた。
再会した場所は、グラウンドではなく“職員室”
そして時は経ち、僕は大学4年生になった。教員採用試験に合格、高等学校への赴任が決まった。無事に大学を卒業し、初めての出勤日を迎えた。
緊張しながら先生たちに挨拶をし、職員室で自分の荷物を整理していると「久しぶり、覚えてる?」と急に声をかけられた。振り向くと、なんとそこにNさんがいたのだ。しかし、僕は大学卒業からストレート合格で正規教員、一方Nさんは非常勤講師だった。
大学時代、あれほど偉そうにしていたNさんがずいぶんしおらしい態度になっていた。そしてそのあとすぐに「ストレート合格で新規採用か……」と言ってその場を立ち去った。
立場や肩書はそれほど大切なものなのだろうか……
採用された立場が違ったとしても、僕にとっては先輩であることは変わらなかった。しかしNさんにとっては屈辱的だったようだ。それもそうだろう、あれほど「先輩」という立場を使ってあれこれ指図していた人間だったのだから。
驚くことに、Nさんは周囲の先生にも僕が後輩であることを言わぬまま、1年後に異動していった。これまでだったら「こいつ、俺の後輩なんですよ」と偉そうに紹介していただろうに。立場や肩書がステータスだったNさん。だからこそ、自分の立場で僕に先輩面することはできなかったのだろう。
【体験者:30代・男性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


