満員のバスの中でひときわ目立つ強豪A高校の部員たち
ある夏の暑い日。私たち陸上競技部は大会会場に向かっていた。その日の大会会場は電車を降りた後、会場までバスに乗車しなければならなかった。そのため、バスの中は様々な学校の陸上部員でいっぱいで満員になっていた。
ほとんどがマナーを守って乗っている中、見覚えのあるウェアを着ている男子部員5名が大声で会話をしていた。“このウェアはA高校だ”とすぐに分かった。A高校は県大会、ときにはその上の大会まで駒を進める選手が何人もいるような強豪校だった。
5人の言動はどんどんエスカレートしていく……
最初は大声で話していただけだったが、そのうち混雑する車内で飲食をしたり、立ったり座ったり、を繰り返したりと、乗車中ずっと落ち着きのない行動をとっていた。
その言動の酷さに、だんだんと迷惑そうな視線を向ける乗客が増えてきた。私の近くに乗っていた他校の部員たちも、「あれってA高校だよね?」と、怪訝そうな顔をしながらヒソヒソと話していた。
乗客が我慢の限界に達したとき、声をあげたのは運転手だった
私は5人からずいぶん離れたところに座っていたのだが、それでも彼らの会話と笑い声は丸聞こえだった。近くにいた人はもっと嫌な思いをしていたことだろう。会場まではこのバスをあと20分以上乗らなければならないのかと先が思いやられていたその時……
「A高校、うるさいんだよ。」──それは、バスの運転手だった。車内アナウンスで車内全体に響き渡った運転手の声で、先程までのお祭り騒ぎは何だったのかというくらい、車内はあっという間に静寂に包まれた。
5人はというと、微動だにせず座席に座っていた。高校名をあげて、乗客全員の前で注意をされたことで、さすがに黙りこくったようである。
自分たちが背負っている【看板】
高校名を出された途端に沈黙した5人。自分たちの行動が学校の看板を背負っていることまでは、頭が回っていなかったのだろう。運転手に注意されて初めて、自分たちが置かれた立場を理解したようである。
レースではいつも輝かしい成績をおさめていたA高校。実力は素晴らしいものだったが、日頃の立ち居振る舞いも強豪校らしくあってほしいと思った経験であった。
それにしても、バス車内の平和を取り戻してくれた運転手のあの一言は痺れるものだった。今更ながら拍手を送りたい。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


