息子のゴール動画を自慢したかった父が、自分の指示でかき消されていたコーチと仲間の声を聞き直す話です。

応援より細かくなった声

これは、会社の上司から聞いた話です。小学5年生のA君の父は、少年サッカーの試合を見に行くのが休日の楽しみでした。

応援に力が入ると、「もっと前」「そこで打て」と細かな指示までしてしまいます。横で母が撮影していても、お構いなしに声を張っていたそうです。

ある日、A君が味方のパスを受けてゴールを決めました。両手を上げて喜んだ父は、帰りの車でも「あの場面、ちゃんと撮れた?」と母へ確認します。

家で動画を見ると、ボールが息子に渡る直前から、自分の大きな声が響いていました。父は、それも含めていい記念だと思っていたのです。

送信する前に止まった動画

「この動画、皆に送って」と父が母に頼むと、横にいたA君が再生を止めました。「その前のところ、もう1回見て」と言うのです。

ゴールの少し前、画面のA君はいったん前へ走り、足を止めて位置を変えていました。その場面に、父の「止まるな、前に行け」という声が重なります。

「お父さんの言うとおりに走ったら、あのパスは来なかったよ」と、A君は画面の自分を指さしました。父には、息子がなぜ止まったのかも、誰がそこへパスを出そうとしていたのかも分かっていなかったそうです。

反対側から撮った同じ得点

翌日、チームの連絡グループに、反対側から撮った同じ得点場面の動画が届きました。父の声が遠いその映像では、コーチの「そこで待て」と、ボールを持つ仲間の「A、戻って」が聞こえます。

A君はその声に合わせて一歩戻り、パスを受けていたのでした。父は2本の動画を交互に再生します。

必要だった声を自分が覆っていたと気づいた父は、母が送信画面を開くと「うちのは音を消そう。その前に、俺が静かにしないとな」と言ったそうです。

父が選んだ次の撮影場所

次の試合、父は母と少し離れた場所から見ました。A君がボールを持つと口を開きかけましたが、そこで言葉をのみ込みます。

息子が味方の声を聞いてパスを出すのを見守り、攻撃が終わってから拍手を送りました。帰宅後、A君が母の動画を再生すると、今度は仲間が呼び合う声まで聞こえます。

父も横で最後まで見ていました。「今日は送っていいよ」とA君に言われると、「俺の声が少ない方が、試合がよく分かるな」と答えたそうです。

その日から父は試合中の指示をやめ、プレーが終わってから拍手を送っています。

【体験者:40代・男性、回答時期:2026年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

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