転勤してきたお父さんは、いつもゴール裏で球拾い
当時小学4年生だった私の弟が所属する地域の少年サッカーチームに、転勤で引っ越してきた親子が入団しました。父親のFさんは練習のたびにゴール裏でボールを拾い続け、練習内容に口を挟むことはほとんどありませんでした。一部の保護者からは「いつも見てるだけで、何もしない人」と陰口を言われていたのです。
監督不在の公式戦でFさんが差し出したもの
私も弟の応援に来ていた公式戦の当日、監督が急な体調不良で来られなくなりました。ほかのコーチは別会場の試合に帯同中で、大会規定では、指導者資格を持つ大人がいなければベンチに入れない決まりでした。会場には、試合中止もやむを得ない空気が流れたのです。
そこでFさんが「僕、資格を持っています」と、財布から指導者ライセンスのカードを差し出しました。球拾いの姿しか知らなかった保護者たちは、騒然となりました。
ベンチに入ったFさんは、前半を0対2で終えたハーフタイムに「相手の右サイドは戻りが遅い。そこを狙おう」と短く指示を出しました。すると後半、チームは3点を奪って3対2で逆転勝利。1点目をアシストしたのは、私の弟でした。
球拾いを続けていた本当の理由
実はFさんは、前に住んでいた街で10年近く少年団のコーチをしていた人でした。新しいチームで出しゃばらないよう、まずは見守ると決めていたのです。
監督の復帰後、Fさんは正式にチームのコーチに就任しました。陰口を言っていた保護者も、練習後にFさんのところへ作戦を聞きに来るようになりました。
まとめ
黙々と球拾いを続けていたFさんの本当の姿が、監督不在というチームの危機を救い、0対2からの逆転劇につながりました。目立たない場所でチームを支える人には、周りから見えていない経験や考えがあることもあります。
練習を見に行ったとき、ゴール裏でボールを拾っている大人がいたら、一度声をかけてみてください。チームの力になってくれる人かもしれません。
【体験者:10代・男性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


