町田がくれた夢
町田から契約満了のリリースはトライアウト前日に出され、多くのファン、サポーターが生え抜きとの別れに涙し、今後の活躍を祈った。
トライアウトを終えて、ミックスゾーンに現れた樋口は感慨深そうに町田での日々を振り返った。
「このトライアウトに集中できないくらい、いろいろな方から温かい言葉をいただきました。自分で言うのも変ですけど、期待されて愛されていたんだなと…。だからこそ、その気持ちに応えられなかったことが悔やまれますね。自分のサッカー人生で一番の後悔です」

ボールを奪いに行く樋口(写真:浅野凜太郎)
樋口が下部組織に入団したときはJ3だった町田。そこから着実に力を蓄えていき、2023年にJ2優勝、昨季はJ1優勝争いを演じ、ついに今季の天皇杯で悲願の初タイトルを獲得した。
先月22日に国立競技場で行われたJ1ヴィッセル神戸との天皇杯決勝はスタンドから見守り、試合後にはピッチ上で仲間たちと歓喜した。中学時代から在籍していたクラブの栄冠は驚きとうれしさが混在していた。ただ時間が経つにつれて、ふつふつとこみ上げてきた感情は悔しさだった。
「自分が関わっていないタイトルって、こんなに歯がゆいんだって勉強になりました。タイトルってこんなに華やかなのかと。
達成感とかうれしさが、みんなの体からにじみ出ているんですよ。でも僕はそれを感じられなかった。やり切れたとか、自分でつかんだという感情を持てなかったことが、めちゃくちゃ悔しかったですね」

天皇杯を制した町田(写真:浅野凜太郎)
目に焼き付いているあの日の光景が、22歳の原動力だ。
Jリーグクラブでのプレーを希望しているが、たとえどのカテゴリーでも、出場するためにベストを尽くしたいと力を込めた。
「やっぱり取りたいですね、タイトル。町田が僕にくれた夢です」
沖縄SV時代は引退も覚悟した。それでも今季より復帰した町田がつかんだタイトルと、同クラブのチームメイトやファン、サポーターの存在が、22歳の心に火をつけている。

ドリブルする樋口(写真:浅野凜太郎)
「町田に戻ってきていろいろなものを見て、たくさんのことを学んだからいまがある。町田にいられたことへの感謝を、自分のプレーや活躍で応えていきたい」と、樋口は夢を追いかけ続ける。
(取材・文・写真:浅野凜太郎)
