サッカーW杯北中米大会で決勝トーナメント進出を決めたサッカー日本代表だが、ラウンド32でブラジル代表に惜しくも逆転負けを喫した。
なぜ、ブラジルは世界屈指の強豪国なのか。かつてブラジルでプロ選手としてプレーした経験を持ち、『サッカーに詳しすぎる市議会議員』としても知られる桐木優氏に、ブラジルのプロクラブで学んだ「マリーシア」について語ってもらった。
ブラジルのプロサッカークラブで「マリーシア」を学んだ話
日本人は「マリーシア」が不足している、と言われることがあります。
僕が現役のプレイヤーだった頃、ブラジルのとあるプロサッカークラブのミーティングでのこと。チームの監督が突然こんなことを言いました。
「自分たちのゴールから遠いところで、相手の足を蹴っ飛ばせ!フリーキックを取られてもゴールから遠ければ怖くない。これは『マリーシア』だ!」
「マリーシア」という言葉は日本にいるときにも聞いたことはありましたが、いやはやなんとも恐ろしい話です。
そういえば「日本には仕事がたくさんあるのに、君はなんでわざわざブラジルまでやって来て、僕らの仕事を奪うんだ」とよく言われていたことを思い出しました。
彼らには生活が懸かっているのだな、「勝負に徹する」とはこれほどの覚悟なのか……。
感心しながらも、「そんな野蛮な世界で果たしてサッカー人生を歩んでいけるのか」と、不安に思いながらミーティングを解散すると、とあるチームメイトが「あいつ(監督)は頭がおかしいな」と話しかけてきました。
「マリーシア」って監督が言ってたのとは違うの?
僕がチームメイトに問うと、「あんなことを言っているのは、ブラジル中を探してもあいつだけだよ!」とのこと。監督が話していた酷い話は、どうやら「マリーシア」ではなかったようです。
「日本人は『マリーシアが足りない』って言われることがあるけど、本当にそうなのかな?」
再びチームメイトに問うと
「桐木はマリーシアだろ。お前は日本人じゃなくて、ほぼ(プレーは)ブラジル人だけどな」
「昨日の夜だって、ボアッチ(ディスコみたいなところ)で、あの娘と仲良さそうにしてたじゃないか。連れて行ってやったのは俺なのに……」
との回答が。おっと、話がおかしな方へと進みそうなので、慌ててサッカーの話に戻しましょう。
彼らの話によると、「マリーシア」とは、相手の逆を突いたり、嫌がることをしたり、出し抜いたりすることを指すようです。
(彼の場合は、ディスコで僕に「出し抜かれた」と思い込んでいて、そう表現したのかなと……)
でも、僕は自分が「マリーシア」ができているとは気づきもしませんでした。
ブラジルに来たばかりの頃、屈強なディフェンダーと真正面からぶつかり合っていたら怪我が絶えませんでした。
そこで、相手にぶつからないように、ボールを受ける前の動きや、ファールの貰い方。そして、パスの出し方やシュートタイミングの作り方などを、チームメイトの動きを手本にしながら、自分なりに色々と工夫して、身につけただけなんですけどね。
「ブラジル人だってそうだよ。マリーシアしようと思ってやっているわけじゃない。サッカーをしているだけだよ」
日本人が「マリーシアしよう」と思っているうちは、それは「マリーシア」ではないのかもしれません。

〈桐木優・プロフィール〉
1977年静岡県生まれ。韮山高校を卒業後、単身ブラジルにサッカー修行に渡り、無事にプロ契約を勝ち取るも、試合中に後ろからカニバサミを喰らって、泣く泣く引退に追い込まれる。
日本でのサラリーマン生活を経て、介護会社を起業。その後は現場の声を政治に届けるために一念発起し、2011年の多摩市議会議員選挙に初当選を果たした。
自身のホームページに何気なく掲載した「東京ヴェルディ観戦記」が注目を集め、『サッカーに詳しすぎる市議会議員』として知られるように。近年は幅広く社会保障全般に携わる『肩書きの多すぎる市議会議員』としても存在感を示している。
主な資格・職業は、多摩市議会議員の他に、ケアマネジャー、相談支援専門員、保育士、社労士、行政書士、宅建士、管理業務主任者、公認心理師、はり灸マッサージ師、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、サッカーC級コーチ、サッカー3級審判員等
執筆:桐木優
写真:Getty Images、本人提供
