SaaS企業として知られる(株)ログラスは、現役の女子バスケットボール選手である​馬瓜エブリン 選手らの専門家をゲストに招き、スポーツの現場における動画解析やAIの使い方についてのトークイベントを実施しました。

当日はデモ動画を交えながら、現場で実際に行われているAIを使った動作やデータ解析に関する最新事情が明かされました。今回は主催者の荒木慎平さん(株式会社ログラス AIオペレーションマネージャー・Cursor Official Ambassador)に、イベントを振り返ってもらいました。

現役バスケット選手と学ぶ、AI時代のスポーツ分析と現場の業務効率化

こんにちは。ログラスでAIを専門にしている「しんちゃん」と申します。2026年7月9日「AI時代のスポーツ分析と現場の業務効率化」というイベントを開催しました。

画像: 現役バスケット選手と学ぶ、AI時代のスポーツ分析と現場の業務効率化

登壇者

* 荒木慎平/ 株式会社ログラス AIオペレーションマネージャー・Cursor Official Ambassador
* 馬瓜エブリン/ Back Dooor株式会社 代表・現役女子バスケットボール選手
* 新奥真由子(パンちゃん)/ 合同会社Mazelto AIクリエイター・デザイナー
* 稲實杏翼/ 玉川大学男子バスケットボール・アシスタントコーチ

登壇者は4名で、さまざまな立場からディスカッションさせていただきました。

現役選手のX投稿をきっかけに生まれたイベント

開催することになったきっかけは、現役女子バスケットボール選手の馬瓜エブリンさんの「現役バスケ選手がエンジニアじゃなくても、AIで試合映像を自動解析できた話」というX(旧Twitter)の投稿でした。

「AIで試合動画を解析している」という投稿は148万インプレッションまでバズり、私から声をかけさせてもらって、このイベントが実現しました。

AIの抽象的な話というより「実際に分析をやってみて、できたこと・難しかったこと・できなかったこと」を率直に共有する60分でした。

イベントで話されたこと ─ 4つのデモとディスカッション

画像: (C)筆者撮影 エブリンさんのデモをディスカッション!

(C)筆者撮影 エブリンさんのデモをディスカッション!

イベントはデモ画面を見つつ、ディスカッションを深めながら進行しました。

1.現役選手が出場試合をAIで解析する(馬瓜エブリン)

画像: (C)筆者撮影 具体的な解説のシーン

(C)筆者撮影 具体的な解説のシーン

まずはエブリン選手のデモから始まりました。

皇后杯での自身の試合映像を、Google Colab(クラウド上で借りられる高性能な作業環境)で解析していきました。

以前はMetaの「SAM 2」(映像から物体を切り出すAI)を使っていて、今回は新しく出た「SAM 3」が話題になったタイミングで挑戦したとのことでした。

・12秒・30fpsの動画を約350フレームに分解する。
・YOLOで「人か、人でないか」を認識させる。
・選手一人ひとりにIDを振って追いかける。
・ユニフォームの色(この試合は黄と赤で分かりやすかったそうです)で敵味方を分ける。
・そのうえで画面上のピクセル座標をコートの実寸(バスケは15m×28m)に変換して、走行距離やスプリント速度まで出す。

上記のような具体的な手順も教えていただきました。

本来なら高額な計測ツールが必要な数字に、AIで近づけていく試みです。

面白かったのは、できたことと、できなかったことの両方を包み隠さず見せてくれて、平均時速8kmはトレーナーの方が見ても確からしい数字が出ました。一方で最大速度は時速40kmと出て、エブリンさん自身が「これはさすがに嘘やろと思った」と笑い、会場も沸きました。(ウサイン・ボルトの最高速度は時速約45km)

また、「選手が密集すると追跡が外れる」「白いユニフォームは反射で認識しづらい」「背番号を追い続けるのも難しい」といった難しさもあるので、コツとして一人ずつ解析すること、短いフレームで細かく回すこと(スマホでもフレームレートは選べるので60fps以上を推奨)、計測が目的なら固定カメラが有利なども教えていただきました。

2. モデルの進化で、だいぶ楽に分析できるようになった(荒木慎平)

画像: (C)筆者撮影 続けてテニスの分析についてディスカッション

(C)筆者撮影 続けてテニスの分析についてディスカッション

私(しんちゃん)からは、機械学習AI(YOLOやSAM)と生成AIの違いを整理したうえで、テニス映像の分析とその結果をお見せしました。

実は以前、プロテニスの試合映像でフォアハンド/バックハンドの判定に挑戦して、並の調整では全然ダメだった経験があります。

一方で最近の高性能モデルに簡単な調整で渡したら「コート認識・人物認識・ショット判定、ボールボーイ」の除外まで、様々なことができるようになっていました。

画像: (C)筆者作成 移動スピードとダッシュした局面の分析データ

(C)筆者作成 移動スピードとダッシュした局面の分析データ

画像: (C)筆者作成 ラリー音の分析データ

(C)筆者作成 ラリー音の分析データ

移動距離、ヒートマップ、打点、さらには打球音からラリーのテンポを逆算する分析まで出せます。

プロンプトの作法も変わりました。昔は「あなたは優秀なアナリストです」と役割を作り込んでいた。今は下手に作り込むより、思っていることをそのまま全部伝えるほうが精度とスピードが上がります。特にタイピングしている人は「音声入力」を強くオススメします。喋って突っ込むほうが早いし、AIは整理上手なのでうまく汲み取ってくれます。

プロンプトはモデルによって変わります。

プロンプトエンジニアリングを学ぶのも大事ですが、やりたいことの言語化の方が本質だと感じています。

3. パデルをAIと対話しながら解析する(新奥真由子)

画像: (C)筆者撮影 パデルを開設するぱんちゃん

(C)筆者撮影 パデルを開設するぱんちゃん

続けて「ぱんちゃん」こと新奥真由子さんは、趣味で始めたパデル(テニスに壁を足したような競技)の解析デモを見せてくれました。

プロの試合映像でボールと選手を追いながら、画面下に「いま何が起きているか」の解説を表示していきます。解説の観点は、Deep Research(AIにWeb上の情報を深く調べさせる機能)でパデルの定石を事前にリサーチさせて作ったそうです。

印象的だったのは、AIとの対話で精度を上げていくプロセスです

・最初は雑に渡して微妙な結果。
・「ボールが追えていません」と伝えたらYOLOv8を提案され、改善。
・さらに「どうやったらうまくいく?」と尋ねると、追加学習を含む選択肢を提示してくれて、「じゃあ全部やってください」と人間が技術を勉強してから使うのではなく、AIに相談しながら進める形をオススメしていただきました!

また「ガラス越しの撮影で奥行きが圧縮される」「コートの隅が映らない」「ボールを色で認識しているので似た色が混ざると落ちる」など競技ごとの難しさもリアルに共有されました。

4.アナリストは約100項目を「手入力」している(稲實杏翼)

画像: (C)筆者撮影 現場でアナリストがやっていることを披露

(C)筆者撮影 現場でアナリストがやっていることを披露

現場のリアルを一番突きつけてくれたのが、玉川大学男子バスケットボール部アシスタントコーチの稲實さんの実演です。

試合中、アナリストはベンチの後ろで映像を見ながら、約100項目のデータをショートカットキーで瞬時に手入力しています。

オフェンスの開始、ディフェンスの種類、スクリーンの動き、シュートの位置。1プレー10〜20秒のあいだに、決められた順序で正確に打ち込んでいく。思わず「めちゃくちゃ細かい……」と声が出る職人芸でした。

海外の先進国では扱う項目数がこの倍ほどあり、しかも分析ツールのライセンスは高額で、大学スポーツにはなかなか手が届かないそうです。。。。。

ここからディスカッションは自然と「この繰り返し作業、AIで減らせないか」へ。手で打つ代わりに、実況のように音声で喋って記録し、映像と同期して、あとで直す。それだけで工数は大きく減らせそうだ、という手応えのある議論になりました。

もうひとつ、忘れられない話がありました。

エブリン選手のリバウンド数が伸び悩んだ年に、「ペイントタッチ」(ペイントエリアに足を入れた回数)という、普通のバスケでは使わない独自指標を測ってもらったそうです。

すると、外からのシュートが増えてペイントに入らなくなっていたことが数字で見えた。以降「この試合で何回ペイントタッチしたか」が改善の合言葉になった。数字は選手を責める材料ではなく、頑張れるポイントになる

データ活用の一番いい形を見た気がしました。

AI×スポーツにおける大事なこと ─ 3つ挙げるなら

画像1: (C)筆者撮影

(C)筆者撮影

当日の議論を通じて、参加した皆さん、そして読者の皆様に持ち帰ってほしいと思ったことは3つです!

1. ツール選びより、データを貯めること

AIモデルは1〜2週間単位で進化しています。今日できないことが、来月には普通にできるかもしれない。だから間に挟むAIツールに一喜一憂するより、最高画質で映像とデータを貯め続けるほうが効きます。

データさえあれば、モデルが進化したときに放り込むだけで一気に前進できる。「やりたいこと」をメモに書き溜めておくのも同じ理由です。

2. AIの性能より先に、環境を整えること

60fps以上で撮る。固定カメラを置く。ボールやユニフォームは他と被らない色を選ぶ。カラーコーンで目印を置くだけでも精度が上がります。

地味に見えるこの土台づくりが、実は解析精度をいちばん左右します。AI側で無理に補うより、きれいな材料を渡すほうが早い。登壇者全員の実感が一致したポイントでした。

3. 一撃で全部やろうとせず、小さく始めること

1試合を丸ごとAIに渡すと、できたのかできていないのか分からなくなります。一番困っているところ、一番簡単にできそうなところから……。

もし、シュートを分析したいのなら、近くに固定カメラを1台置くだけでも始められます。分析したいシーンごとにカメラを分ける。分けて考える発想が、遠回りに見えて一番の近道です。

最後に

画像2: (C)筆者撮影

(C)筆者撮影

登壇いただいた馬瓜エブリンさん、新奥真由子さん(ぱんちゃん)、稲實杏翼さん、そしてご参加いただいた皆さん、本当にありがとうございました。

技術のすごさを自慢する場ではなく、できたことも難しかったことも率直に出し合える場になったことが主催者として何より嬉しかったです。

エブリンさんが語ってくれた、自分は1995年生まれでインターネットが入ってきた変革期に育った、当時「そんなのできるわけない」と言われながら使い倒した人たちが今の第一線にいる、AIもこの変革期にアンテナを張れるかどうかだ──という趣旨の言葉が、この日の全部を要約してくれていました。

デモが動いた瞬間のどよめきや、懇親会でそれぞれの競技・現場の話が止まらなくなる空気は、この場に来た人だけのお土産だったと思います。

こういうSports x AIの場はこれからも続けていきたいです。ありがとうございました。

執筆:荒木慎平(株式会社ログラス AIオペレーションマネージャー・Cursor Official Ambassador)

This article is a sponsored article by
''.