世界屈指の熱狂的なサポーターを持つボルシア・ドルトムントが、スタジアムで「スマホを見ないファン」を増やすための異例の施策を打ち出した。

『The Guardian』によれば、ドルトムントは先週末のフランクフルト戦に合わせ、試合中にスマートフォンを使わなかった観客を対象とするリワード企画を実施したという。

対象となったのは、クラブ公式アプリ内の「ファンモード」を起動したサポーター。試合中にスマホのロックを解除した回数が少ないほどポイントが貯まり、サイン入りユニフォームやクラブショップのギフトカードなどが当たる仕組みとなっていた。

ドルトムントの本拠地ジグナル・イドゥナ・パルクは8万人以上が詰めかける巨大スタジアム。なかでも南スタンドの「黄色い壁(イエローウォール)」は、欧州屈指の熱狂的な応援エリアとして知られる。

フランクフルト戦でも8万1365人が来場し、マクシミリアン・バイヤーの決勝点によってドルトムントが1-0で勝利。スタジアムはいつも通り大歓声に包まれたが、クラブ側は観客がスマホの画面ではなく“目の前の瞬間”に集中することを強く望んでいた。

この試みについて、ドルトムントのカルステン・クラマーCEOは「8万1000人以上がスタジアムで一緒に歌い、声援を送り、息をのむ。この“今、この瞬間”は何ものにも代えられない」と説明している。

スポンサーであるボーダフォン・ドイツのマルセル・デ・グロートCEOも、「サッカーの試合に来たなら、その瞬間と感情を体験してほしい。スマートフォンの画面だけを見るのではなく、もっとポケットに入れて、ピッチとスタンドで起きていることに集中しましょう」と呼びかけた。

この背景には、近年スタジアムで急増している“インフルエンサー型動画”への懸念もあるようだ。ドイツ2部のヘルタ・ベルリンやディナモ・ドレスデンでは、すでに商業目的のインフルエンサー動画をスタジアム内で禁止している。これは放映権への影響だけでなく、周囲の一般ファンの観戦体験を損なう可能性も問題視されている。

同様の現象はサッカー界だけにとどまらない。今年の全米オープンテニスでは100人を超えるコンテンツクリエイターに取材許可が下りたものの、試合中に客席でリングライトを使用し、主審が停止を求める事態にまで発展した。一方、格式を重んじるウィンブルドンでは、インフルエンサーへの取材許可を原則として認めていない。

ただ、今回のドルトムントの試みは「そもそもクラブは、入場料を払った観客に『どう試合を見るべきか』まで求めていいのか」というテーマも内包している。

スマートフォンでゴールシーンやスタジアムの景色を撮影するのも、現代のファンにとっては大切な観戦体験の一部だ。しかしその一方で、スタンド全体が一体となって声援を送ることこそが、フットボールカルチャーの最大の醍醐味でもある。ドルトムントの新たな試みは、現代スポーツにおける「ファンのあり方」そのものを問い直しているともいえる。

筆者:石井彰(編集部)
画像提供:Getty Images

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